全米女子オープンとヨネックス・レディース。週末の女子ゴルフは、米国、国内で見応えのある優勝争いが演じられた。全米女子は笹生優花と畑岡奈紗。ヨネックスは笠りつ子と三ケ島かな。本来ゴルフは個人スポーツで、優勝のかかった2人が、直接やり合うという場面はないが、今回の2つの決勝は、まるで格闘技の対決を見ているような感覚に陥った。

笹生優花は優勝を決めるパットを沈めガッツポーズ(ロイター)
笹生優花は優勝を決めるパットを沈めガッツポーズ(ロイター)

プレーオフとなった全米女子は、戦いは3ホールに及んだ。最初の2ホールはティーショットをともにフェアウエーに置いた笹生に対し、畑岡はいずれも左ラフ。ともにバーディーパットを外しパー。サドンデスとなった3ホール目は逆の展開。笹生が第1打をラフに入れ、フェアウエーをキープした畑岡。しかし、笹生がラフからチャンスにつける見事なアプローチに対し、畑岡はチャンスにつけられなかった。若さと勢いのある挑戦者が、実績も経験もある畑岡と一歩も引かない戦いを演じ、最後は勢いでねじ伏せたように見えた。

ウイニングパットを沈めて5年ぶりのツアー優勝を果たした笠りつ子(2021年6月6日撮影)
ウイニングパットを沈めて5年ぶりのツアー優勝を果たした笠りつ子(2021年6月6日撮影)

笠と三ケ島の戦いは熾烈(しれつ)だった。2打差を追う三ケ島が積極的に攻め、後半13番で1打差に迫った。そこから5ホール。14、15番と連続でバーディーチャンスを作りながら、カップに嫌われ追いつけない三ケ島。守る笠は、安全にパーを続けた。残り2ホール。17番でピンチを迎えた笠が4メートルのパーパットを沈め、1打差のまま最終18番へ。先にバーディーを決めた三ケ島に対し、笠はここでも3メートルのバーディーパットを決めきり、5年ぶりの優勝をつかんだ。笠が三ケ島のあの手この手の攻撃をがっちり受け止め、最後までスキを見せず勝ちきったように見えた。

全米女子OPプレーオフで敗れた畑岡は優勝した笹生をハグで祝福(AP)
全米女子OPプレーオフで敗れた畑岡は優勝した笹生をハグで祝福(AP)

勝った笹生と笠のゴルフは素晴らしかったが、負けた畑岡と三ケ島のゴルフと攻める姿勢は見事だった。畑岡は米国ツアーに参戦して5年。18年の全米女子プロ選手権に続く、2度目のプレーオフ敗退による2位だった。6打差から追い上げ、日本人同士のプレーオフに持ち込んだ。悔しさが募る中、優勝した笹生と抱き合い、背中をたたいて勝利を祝福する姿は胸を打った。

米ツアー3勝、世界ランクも最高3位となった畑岡は、毎年のようにメジャー制覇を目標に努力を重ねている。ジムで体を大きくし、大会中はスタートする3時間も前から会場に入り練習、プレー終了後も練習とまさに練習の虫だ。ナショナルチーム時代から指導する日本協会のガレス・ジョーンズ・ヘッドコーチも「大会の最終日に疲れてしまわないように」と心配するほどだ。そんな努力は、必ず実ると思う。松山英樹でさえ、マスターズ制覇までは10年もかかったのだ。

最後まで優勝を争った三ケ島かな(左)の祝福を受ける笠りつ子(2021年6月6日撮影)
最後まで優勝を争った三ケ島かな(左)の祝福を受ける笠りつ子(2021年6月6日撮影)

三ケ島も、16年のツアー参戦から毎年のように2位、3位とあと1歩のところで初優勝の壁にはね返えされている。スイングに悩み、昨年からは渋野日向子を全英女子オープン優勝に導いた青木翔コーチに師事。技術や気持ちの持ち方で、少しずつ調子を取り戻してきた。今回も1打差で敗れたが「久しぶりに上位でプレーして、上位ならではの緊張の中で戦えた。最終日、最終組でしか味わえない攻め方も感じられた」と結果を前向きに捉えていた。

今回は敗れはしたが、2人がそれぞれ目標とする結果をつかむ日が来ると信じている。【桝田朗】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)