国内女子ゴルフの今季注目選手14人を紹介する連載の最終回は、鈴木愛(24=セールスフォース)です。17年の賞金女王はケガに悩まされ、昨年は賞金ランク3位に終わりました。それでも今年も、日本人では女王争いの最有力候補であることは間違いなさそうです。開幕戦となるダイキンオーキッドレディース(3月7~10日、沖縄・琉球GC)から復活への歩みを始めます。

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夕日が2人を照らし、長い影が芝生に落ちていた。気温はだんだんと下がりつつあった。昨年11月中旬、愛媛で開催された大王製紙エリエール・レディースでのこと。ほとんどの選手が帰路に就いてもなお、2人の選手は練習場で、まだ黙々とパットを繰り返していた。

1人は昨年の下部ツアーで賞金女王に立った伸び盛りの河本結。もう1人が鈴木だった。すっかり暗くなり、ボールが見えなくなると、ようやく2人は練習を終えた。

誰よりも鈴木が練習をすることは、番記者や関係者の間では有名な話である。取材の過程で、他の選手からも「愛ちゃんがあそこまで練習しているのだから、私も」というようなことを、よく聞くことがある。鈴木の背中を見ている若手は、そうやって自然と練習量が増えていく。あの日、鈴木の母美江さんに話しかけると、こう漏らしていた。

「どれだけ練習しても、なかなか勝てないんです。だから、もっと練習しようと、そう思うみたいです」

昨年は故障に悩まされた。右手首痛などを抱え、夏場に2カ月近く欠場した。復帰した9月の日本女子プロ選手権で26位となり、賞金ランク1位の座を優勝した申ジエに明け渡すと、真剣な目、強い口調でこう言った。

「(賞金女王には)こだわっています。申ジエさんには、負けません!」

前半戦で4勝を挙げながら復帰後は未勝利。賞金ランクはアン・ソンジュ、申ジエに続く3位に終わった。昨季最終戦となったツアーチャンピオンシップ・リコー杯最終日には、パットの名手が最終18番で1メートルのパーパットを外してV逸。最終組がホールアウトするまでの間、涙をこらえながら悪夢の残像を消し去るかのように、1メートルのパットを練習場で繰り返す姿があった。

「練習したものが報われなかったです。来年は年間5勝を達成したい」

努力の人が結果を残せば、その背中を見ている他の選手もさらに練習を重ね、日本ツアー全体が底上げされることだろう。鈴木にとって、女王返り咲きを目指すシーズンが、いよいよ始まる。(おわり)【益子浩一】

◆鈴木愛(すずき・あい)1994年(平6)5月9日、徳島・三好郡東みよし町生まれ。11歳で競技を始め、鳥取・倉吉北高ではJGAナショナルチーム育成選手。13年夏にプロテスト合格。翌14年の日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯で初優勝。同年に賞金ランク13位となり、賞金シード権を獲得。ツアー通算9勝、下部ツアーで2勝。155センチ。