「しぶこ ひなこ」。

国内のツアー会場で、渋野はこう呼ばれている。その名付け親が、ジュニア時代から親交があり、同じPINGとクラブ契約を結ぶ1学年上の大出瑞月(21)だった。20歳でメジャーを制し順風満帆にも見える渋野だが、17年のプロテストは3日間で1度もアンダーパーを出せず、通算15オーバーで最終ラウンドにすら進めなかった。大きな挫折を味わった。どん底の時、大出はよく相談を受けた。

「パターの練習の仕方やアプローチの打ち方を聞かれて、自分がやっていることを言いました。パタードリルとか、しぶこもやり始めた。優勝を決めた最後のあの距離(18番のバーディーパット)もよく打った」

あだ名は、みんなから親しまれやすいようにという願いが込められた。「最初は『渋ちゃん』。でも変だなと思って、それから『しぶこ』。何でも言う通りにするからあの子はかわいいし、愛されるんです」。試合球に記されているのは「しぶこ ひなこ」。その字体も色も、大出の発案だ。

常に笑顔で明るい姿は、多くの選手に刺激を与える。この日、玄関口で到着するのを待ち受けたのは、同じ黄金世代の大里桃子だ。車から降りると、抱きつかれた。大里は「やる気が出ます。(全英を)見ながら『どんだけスコアを伸ばすねん!』って思っていましたから。私も頑張る」。昨季、下部ツアーで一緒に戦った河本結も「遅くまでパターをして、すごく練習しているのを見ていました。努力は裏切らないことを教えてもらった。私たちも努力をすれば、世界で勝てることを証明してくれた」。

世界が付けた愛称は「スマイリング・シンデレラ」。元祖・名付け親の大出は言う。「ちょっと長い。『スマシン』の方が強そうですね!」。誰からも愛され、いつしか、誰よりも強くなった。【益子浩一】