AIG全英女子オープンで日本男女を通じ42年ぶりのメジャー優勝を達成した渋野日向子(21)。帰国すると、空前のゴルフブームが沸き起こっていました。日刊スポーツでは「しぶこの足跡」と題し、31日大みそかまでの7回、WEB連載で今季の戦いを再掲載します(毎日正午掲載予定)。第4回は8月のお盆期間に開催されたNEC軽井沢72トーナメントです。優勝を目前にした最終日の18番で痛恨の3パット。過度の重圧の中でV逸の3位となり、涙を流しました。

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最後まで笑顔だった。クラブハウスに戻った渋野は、母伸子さんと目が合う。肩をトントンとたたかれると感情が込み上げてきた。会場ではまだ、勝利した穴井詩と、イ・ミニョン(PO)がプレーオフを戦っていた。優勝に手をかけながら、そのPOすら逃した。

「作り笑いはしたくない」。いつもそう言うが、この日ばかりは、心からの笑顔ではなかった。小走りでロッカー室に入ると、隠れて泣いた。

悔しかった。どうしても、勝ちたかった。

「無理に笑っていました。人前で(涙を)見せるものではないから、我慢をしていました。(涙が)出たっちゃあ、出ましたね」

通算14アンダーの首位タイで迎えた18番は、全英と同じ舞台になった。最終組の渋野がバーディーなら優勝。フェアウエーからの第2打は池を越え、グリーンへ。ピンまで5メートル、下りのフックラインは全英を制した最後の1打と同じ距離だった。大観衆が固唾(かたず)をのんで見守る。勝負をかけたバーディーパットは、カップをすり抜け2メートルオーバーした。さらに、入れれば3人によるPOになったパーパットまで外し、3パット。ボギーでV逸。2週前は攻めて勝ち、今回は攻めて負けた。

「最後はむちゃくちゃ緊張しました。めっちゃ手が震えていた。『情けね~な。何で緊張しよるんかな』と思った。自分で自滅して、最後に台無しにしてしまった。悔しい思いはたくさんしてきたけど、今回が最近では一番悔しいです」

笑顔の裏に、人知れず流した涙と努力の跡がある。98年度生まれの黄金世代では最も遅れてきた選手の1人。この時点で、申ジエ(韓国)に続く賞金ランク2位の約8479万円を稼いでいたが、昨年はレギュラーツアー出場1試合で賞金0円。試合にすら出られない1年前の屈辱があった。

「勝たなければいけないですから。この悔しさは忘れずに練習するしかない」

試合が終わり1人、涙を流してから1時間半が過ぎた。渋野は待っていたファンと関係者1人、1人に手を振りながら会場を後にした。

「次もまた頑張ります。応援よろしくお願いします!」

全英女子オープンを制し、夏休みの日本は空前のゴルフブームが起こっていた。過度の重圧で、一時は体調も崩した。

凱旋(がいせん)2戦目での優勝は逃した。それでも、渋野の戦いぶりは、多くの人に興奮と、感動を伝えていた。