ともに日本人初のメジャー2勝目と、女子ゴルフ界随一の「全米女王」の称号は、2打及ばずこぼれ落ちた。首位で出た渋野日向子(22=サントリー)は、2バーディー、5ボギーの74と3つ落とし、通算1アンダー、283と失速。金阿林(キム・アリム、韓国=25)に、大会史上最大に並ぶ最終ラウンドでの5打差逆転を許し、目に涙をためて悔しがった。それでも不振にあえいだ20年の最終戦で、世界を再び驚かせた。東京オリンピック(五輪)も行われる21年に向けて成長を証明した。

《「絶対ここでまた戦う」一問一答》

うつむいたまま首を横に振った。17番パー4の第3打。渋野は12メートルのバーディーパットを、2メートル近くも残した。「争っている中でショートした自分がすごく情けない。ダサい」。無観客開催で歓声もなく、途中のリーダーボードも少なく、正確な状況は把握できていない。それでも優勝が遠ざかった実感はあった。実際に、ホールアウトしていた金とはこの時点で2打差。バーディーなら1打差で、18番は1つ伸ばしている。優勝の権利を手放す「ショート」に動揺したのか、さらに2打を要し、ボギーとして優勝は事実上消滅した。

「悔しいけど、これが今の実力と思って受け止めるしかない。今年1年を考えると、よく頑張ったかなと思う」と、声を震わせて話し、目を涙で潤わせた。それでも涙はぬぐわず「悔しい思いもありますが悔いはないです。1、2日目のゴルフが良すぎた。3、4日目のゴルフが今の自分」と言い切った。セッティングの難度が増した、決勝ラウンドの失速は実力不足として、言い訳しなかった。

それでも第2ラウンド序盤から10番のボギーで陥落するまで、大会の半分以上で首位だった。「スマイリング・シンデレラ」の愛称が、元世界1位のリディア・コ(ニュージーランド)らライバルから「スマイリング・アサシン(暗殺者)」と名付けられるほど、ポーカーフェースで淡々と正確な仕事をこなす姿を警戒された。本物のライバル、脅威と認めさせるには、十分な存在感を見せつけた。

今年は国内外ツアーの3戦連続予選落ちに始まり、夏場約2カ月参戦した米ツアーでも目立った成績を残せなかった。連覇を狙った8月のAIG全英女子オープンで105位の予選落ち後は、母校の岡山・作陽高ゴルフ部の田渕潔監督に、LINE(ライン)でアドバイスを求めたこともあった。田渕監督から「去年が異常なだけで今年が普通」との返信をもらった。その中で「去年の自分に戻りたいと考えた時期もあったけど、また新しく作り上げたい」(渋野)との考えに達した。

直近の国内ツアーでは5位、3位と復調した。そして世界最高峰で4位。「米ツアーに行きたい気持ちが強くなった。この悔しい気持ちは、米国ツアーでしか晴らせない。絶対にここでまた戦いたい」。14日付の世界ランキングは古江彩佳を抜き、日本人2番手の13位へと3つ上がった。“東京五輪経由米国行き”という、21年の明確な道筋を再確認できる大会となった。【高田文太】

《渋野のスイング改造》

《しぶコーデ》

《渋野の18ホールVTR》