昨年のAIG全英女子オープンで42年ぶり2人目の日本勢Vを成し遂げた渋野日向子(22=サントリー)が、今年最後のメジャー、全米女子オープンで優勝争い-。惜しくも4位に終わったとはいえ、あのどん底を思えば、こんなシナリオ、誰が想像できただろう。

ところが、だ。半年前、渋野の青木翔コーチはこんな言葉を残していた。

「年内でできたらいいなと」-。

新型コロナウイルスのパンデミックで停止したツアーが動きだしたのは、6月25日開幕のアース・モンダミンカップ。6月15日、渋野と青木コーチは“開幕”に向け、合同オンライン会見を行った。

昨年オフからコロナ自粛にリンクした長いオフをどう過ごしたか。青木コーチは言った。

「開幕(3月ダイキンオーキッドレディース)がなくなった時(渋野は)すごく調子がよく、それを維持するのは大変だから、1回落とそうという話になった。その時に“来年以降、こうやっていきたい”ということがあって。スイングで言うと、今までスタンス広めで体重移動をすごく使ってきたのを、スタンスを狭くして、体の捻転を使う形に。もっとねじりを強く、それで再現性を高めていく方に」

開幕後、渋野の不調もあって沸き起こったスイング改造論争(と言うのも大げさだが)の発端が、この発言だった。

スイング改造に着手した3月時点では、いつ“開幕”するか不透明で、かなり遅くなるという見立てがある一方、逆に思ったより早くなる可能性もあった。着手したはいいが、間に合わないリスクもあったのではないか。だから、聞いた。

-スイング改造には、すっと入れたのか?

青木コーチ あまり抵抗はなかった。もともといつかやりたい、次の段階としてやるべきことだった。これだけ時間をいただけたので“今しかない”と思った。

-渋野の習得能力ならいけると? たとえば2カ月ぐらいで形になる手応えがあったのか?

青木コーチ う~ん、もうちょっとかかるだろうなと…。年内でできたらいいなと。

アース・モンダミンカップ、スコットランドオープン、そしてディフェンディングで臨んだAIG全英女子オープンと予選落ちが続いた。スタンスは当初、昨年より狭かったが、再び徐々に広くなっていったように思う。歩調を合わせるように成績も上がり、今回の全米女子オープンにつながった。ただ、渋野が「昨年に戻した」と明言したことは1度もなかったと思う。

スタンス幅を狭める、より捻転を使う-。これはあくまで「手段」だ。「目的」は「再現性の向上」にあった。

今の渋野はスイングがスムーズで、振り切りもよく見える。実戦を重ねることで、単純に調子が良くなったのかもしれない。確かに試行錯誤を重ねた。当初の青写真通りではなかった。だが、渋野の頭に「再現性の向上」というキーワードがあり続けたのなら、苦い経験をプラスに変えられたのなら、春先の決断はきっと、いろんな意味で正しかった。

紆余(うよ)曲折はあったが「年内」に結果は出たのだから。【加藤裕一】

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)