今年のゴルフ界は、男女ともに若手の躍進が目を引いた。女子ではミレニアム世代の古江彩佳(20=フリー)が3勝。男子ではプロ転向したばかりの金谷拓実(22=東北福祉大4年)がプロ1勝を挙げた。

日本ゴルフ協会ナショナルチームのヘッドコーチとして彼らを育てたガレス・ジョーンズ氏(49=オーストラリア)に、世界水準の強化の秘訣(ひけつ)を聞いた。

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国際試合でのユース年代の惨敗を受け、15年に招聘(しょうへい)されたジョーンズHCは、世界水準の強化プログラムで選手たちの意識を変えた。競技統計分析による選手の弱点の洗い出しや、オーストラリアでの合宿、国際試合によって、実力をつけていった。

ジョーンズHC 私がこのチームで働き始めて、選手の行動や練習を観察し気付いたのが、ロングゲーム中心の練習でショートゲームが少ないこと。100ヤード以内のショットがゲームの65%を占めるし、スコアを出すためのメンタリティーをまず植え付けることが大事だと思った。より強調するために65%、35%だと伝え、これがチームの中心的な概念になっています。

ショートゲームの大切さと同じように説いたのが、準備の大切さ。それがチームの哲学である「インポジション・コンセプト」。インポジションとは、パッティングで最もカップに入れやすい上りの真っすぐなライン「ゼロライン」につけやすい場所のこと。これを選手たちが練習ラウンドで徹底的にチェックし、ヤーデージブックに書き込む。

ジョーンズHC ゼロラインを探して、さらに自分でコース戦略を作って試合に向かっていく準備。金谷、中島啓太、畑岡、西村、古江ら成功している選手は、練習ラウンドの際に詳細を集めて細かく書き込むことにたけていました。

毎年1月~4月に行うオーストラリアキャンプは、海外で戦うスキルを身に付ける格好の場となった。

ジョーンズHC この時期夏のオーストラリアは、暑いがドライな環境で、グリーン周りは非常にタイト。芝目がきつく、芝も硬くて、バンカーも硬くて難しい。4番アイアンやハイブリッドを使う技術の引き出しも必要。いろんなクラブを利用する技術を学ぶことが国際舞台では必要で、そんな経験ができたと思います。

日本を強くするために、当時ラグビー日本代表の監督だったエディー・ジョーンズ氏にも話を聞いた。

ジョーンズHC エディーさんがラグビーの練習が長い時間質の低い練習をしていて、それを変えたいと言っていて、ゴルフも全く同じだと思った。より短い時間で集中して密度の濃い練習をすることで実戦に通用する技量を身に付けられました。選手には、どんな試合でも世界基準の行動ができたかを振り返ってもらいます。世界のベストアスリートと自分を比べることを習慣化することで、自分をもっと上に押し上げられるという話をしています。

ジョーンズHCの強化は、その教えを忠実に実践し結果を出した畑岡の躍進に引っ張られる形で、チーム全体のレベルアップにつながっていった。畑岡の次に米ツアーに飛躍する予備軍がどんどん育っている。【桝田朗】

◆ガレス・ジョーンズ 1971年英国生まれ。95年にプロとなり、97、98年にはツアープレーヤーとして活躍。その後オーストラリア国立スポーツ研究所などを経て、同国ナショナルコーチに就任。15年にJGAナショナルチーム・ヘッドコーチ。17年にはネイバーズトロフィーチーム選手権で13年ぶり男女アベック優勝。畑岡奈紗が、16、17年と日本女子オープン2連覇や米ツアー3勝。男子の金谷拓実、中島啓太がアマチュアランク世界一になるなどその手腕は高く評価されている。