男子ゴルフのマスターズを制した松山英樹(29=LEXUS)の強さの秘密は、流行に逆らう、こだわりのシャフトにもあった。

松山がジュニア時代から愛用しているのがシャフトメーカー「グラファイトデザイン」(埼玉県秩父市)のモデルで、マスターズでもドライバーと3番ウッドで同社の製品を使っていた。その戦いを「緊張しながら見ていた」という同社担当の高橋雅也さん(50)に話を聞いた。

クラブの軸部分にあたる重要なパーツであるシャフト。偉業達成をテレビで見届けた高橋さんは「サポートしてきたことが結果につながってうれしいです。今回は見ていていけるんじゃないかという期待が感じられていた。不思議な気持ちですね」と振り返った。普段から画面越しで見る松山のドライバーの調子には気を配っており、特にマスターズ最終日の17、18番のティーショットは固唾(かたず)を飲んで見守っていた。「あの2つがフェアウエーに飛んだのは良かった。そこで曲がったら、シャフトのせいかなとか思ってしまうので。本人の技術、ギアの特性を理解して指導してくれたコーチと(クラブを調整する)ツアーレップたちのおかげです」。試合後に祝福の連絡を入れると、松山からもお礼のメッセージが返ってきたという。

出会いは約15年前。松山が中学生のころに、当時からクラブをサポートしていた住友ゴム工業の関係者を通じて知り合った。「最初は顔も知らなかったんです。彼が高校生になったころに出た日本アマの会場で会って、そこで初めて名刺を渡しました」。プロデビュー、そして世界へと活躍の場を移す松山を支える日々が始まった。

同社のシャフトは、先週の男女ツアーで優勝した岩田寛と上田桃子も共に使用するなど、日本のプロゴルフツアー使用率トップとしても知られる人気銘柄だ。松山が使うのも2人と同じ人気モデル「ツアーAD」の「DI 8 TX」。新型が出る度にテストは行っているが、松山は2010年発売の同モデルを10年以上も愛用している。

他のプロと決定的に違うのはその重さ。同シリーズはシャフト先端が硬く、ヘッドの動きが安定するためボールの高さやスピンが抑えられてコントロールしやすい。これに加えて、松山のモデルはプロ使用率の高い60グラムよりも重い80グラム。現在は技術の進化で軽くて硬い製品が増えているが、松山は当初の70グラムから80グラムと時代に逆らうように年々、重さを増しているという。多くのプロを見てきた高橋さんも「海外選手を入れても、あそこまで重くて硬いものを使っている人はいない」と舌を巻く。「もちろん重いもので振った方が、物理的にはボールは飛ぶ。でもそれを本当に4日間使えるか。彼の体を見れば分かりますが、シーズンを通して使える体力があるからできていることなんです」。

松山は愛用シャフトについて「軽いと手に残る打感がない」と語っていたという。コロナ禍以前は月1度ペースで米国に足を運んでいた。しかし、この約1年間は対面でのヒアリングができず、担当としてもどかしい日々も過ごした。「目の前で球筋とかを見たい気持ちはもちろんありました」。マスターズ前にはクラブヘッドが変わるなど、急ピッチでの調整も行った。「彼は常に自分に合ったものを求めるし、スイングなど全てがプラスになる方向で考えている。満足しないですし、追求心や姿勢は他の選手と全然違います」。

当然、同社にも一般ゴルファーから問い合わせが殺到しており、“松山のシャフト”には通常の倍近い注文が舞い込んでいる。担当として、高橋さんも満足はしていない。「今回、優勝できましたが、100パーセントショットが真っすぐいっていることはなかった。自分たちも次はもっといいものをとは思っています」。より良い製品を目指し、開発は続いていく。【松尾幸之介】