樋口久子(61=富士通)が後継者に送るまなざしは温かい。米ツアーにフル参戦して、奮闘する宮里藍を「すごい!」と称賛する。

樋口「あの年にして、あれだけのプレーはなかなかできないでしょう。私たちは15~16歳でゴルフを始めたら早い方だった。でも宮里さんは5~6歳から始めているでしょう。しかも密度濃く。才能もあるでしょうけど。人間としてもしっかりしている。マスコミとの受け答えもキチンとできる。初勝利? そのうちきっとチャンスが巡ってきますよ」

自らの全米女子プロ選手権獲得については「私は運が強かった」という樋口だが、実はそれは謙遜(けんそん)だけの言葉ではない。彼女が10年で米ツアー挑戦を切り上げた理由の1つは「目指すものがもうUSオープン(全米女子オープン)しかなくなったから」だった。裏返せば、まだ目標はあったにもかかわらず、彼女は米ツアー挑戦をあきらめたのだ。

樋口「私はラッキーで全米女子プロを勝てた。しかし、USオープンは何カ月(アメリカに)いたから勝てるというものではない。アメリカの選手層の厚さ、環境を身近に見てきて、簡単に勝てるものではないことを痛感した」

メジャー優勝の重みは、それを獲得した本人にしか分からないのかもしれない。宮里に樋口のような強運が訪れるかどうか。その答えが出るのは、まだ先のことだ。

今、樋口の夢は日本ツアーをいかに充実させるか、そのことに尽きる。

樋口「米ツアーのように盛んにしたい。強い人が集まり、賞金も高く。これは逆かもしれないですけど、とにかく世界中の多くの人が目指すツアーに…」

オフの12月、女子プロになって1~2年目の選手が新人教育を受けているのをご存じだろうか? 2泊3日でルール、トレーニングの仕方、用具のことなどゴルフそのものにまつわることから会話の仕方、テーブルマナーなど一般常識まで幅広く学ばせている。

樋口「若いうちにプロになって、お金稼ぐのが当たり前、試合に出てやっている、という姿勢の人がやっぱりいますよ。しかしプロだ、プロだ、と威張っても、試合がなければお金なんて稼げない。そういうことを教えてあげないといけない。プロアマ大会でも帯同キャディーと一緒にどんどん勝手に歩いていく選手がいました。スポンサーが日ごろ大事にしているお客さまが出場されているんですよ。年齢差で会話が難しければ、ワンポイントレッスンをしてあげるなり、残り距離を教えてあげるなりすればいいのです」

試合は言うに及ばず、前夜祭などのパーティーでも女子プロのいでたちは華やかになった。ファンを楽しませるプロとして、日本の女子プロたちは明らかに成熟しつつある。

メジャータイトルを取り、03年にはアジア人で初めて世界ゴルフ殿堂にも入った。それでも「やりたいことはまだまだあります」と樋口は言う。

今年12月には協会の定期総会。再任ならば、樋口久子会長、実に5選目となる。(おわり=敬称略)【編集委員=井関真】

【「チャコの奇跡」樋口久子、初めてメジャーを制した日本人/連載まとめ】はこちら>>