平昌五輪(ピョンチャンオリンピック)個人ノーマルヒル銀メダルの渡部暁斗(29=北野建設)が、3位に入り初の個人総合王者に輝いた。複合の日本勢では、92-93年シーズンから3連覇した荻原健司以来、23季ぶり2人目。悲願の裏には、栄華を極めた90年代以降、複合の低迷期を支えた先輩、小林範仁氏から伝えられた言葉があった。受け継いだ攻めの走りを貫き続け、快挙を引き寄せた。

 一番欲しかったタイトルをついに手にした。渡部暁が、日本勢で荻原健司以来、23季ぶりに個人総合王者の座についた。五輪金メダルよりも「W杯(ワールドカップ)王者」と公言してきたが、後半距離でシュミットに先着すればタイトルが決まる一戦。18秒差で追ってきたライバルを寄せ付けず、天を仰いで3位でゴールした。「長かった。ようやく決まった」と喜びに浸った。

 昨季まで個人総合は6季連続で3位以内。五輪でも2大会で銀にとどまった。届きそうで届かなかった頂点だったが、今季は2度の骨折を乗り越え、W杯で日本勢最多タイの6勝を挙げるなど中盤から首位に立ち続けた。12年前にW杯デビューした同じ3月18日に大願成就し、「記念日にしようかな」と笑った。

 競技人生を決めた言葉がある。09年の世界選手権で団体金メダルを取ったが当時のチームの柱は小林範仁だった。90年代以降、低迷する日本勢で走力で世界と渡り合ったエースに練習中に言われた。「俺の前に出ろ。後ろにいたら一生速くならないぞ」。

 その日から変わった。練習から何度も何度も前に出て挑戦し、いつしか走力が武器になった。「その一言が変化の出発点。強くなるために覚悟とかが必要なんだと思った」と話す。その走力と「過去一番いい」という飛躍とが、かみ合い抜群の安定感で栄冠を引き寄せた。「耐えて、耐えてたどり着いた。うれしい」と新王者は万感の思いを口にした。