04年アテネ五輪柔道男子100キロ超級金メダルの鈴木桂治氏(39)が、1日限定で7年ぶりに実戦復帰した。

母校の国士舘大OBで構成する「国士舘大柔道クラブ」の次鋒として畳に上がった。初戦から長い手足を生かした足技と多彩な組み手で相手を圧倒。準々決勝までの4試合を払い腰や大外刈りなどでオール一本勝ちを収めた。準決勝と決勝は、1月に手術した右膝の影響などもあって引き分けに終わったが、全6試合を4勝2引き分けで優勝に大きく貢献した。優秀選手賞を獲得した鈴木氏は「優勝という形で終われたことは良かった。一方で、練習はほぼゼロだったため、『柔道をなめているんじゃないか』という葛藤もあった」と振り返った。

今春、大学の後輩に誘われて出場を決意した。しかし、現実は国士舘大男子柔道部監督と男子日本代表重量級コーチを兼務するため、常に選手たちの指導が最優先。稽古後の居残りウエートトレーニングと食生活の改善で肉体改造し、実戦的な乱取りは大会直前に行った5本のみだった。右膝も完治せず、テーピングで固めて、痛み止めを飲んで臨んだ。「現役選手からすれば、もしかしたら(自分の復帰は)面白くないかもしれない。今日も練習を違うコーチに任せているし、練習をしていない自分がどこまで試合に出て良いのか最後まで悩んだ。畳に上がるまで、体がめちゃくちゃ体が震えていた」。

当初は2~3試合で交代する予定だったが、出場するからには「けがをしてでも良いから勝ちたい」と勝負師としての本能もよみがえった。観客席最前列に座った愛娘の長女楓子ちゃん(かこ、3)と次女の琴子ちゃん(1)から「パパー」と大声援を送られ、教え子で18年アジア大会男子100キロ級金メダルの飯田健太郎(21)らも自主的に応援に駆けつけた。「これが団体戦。ムードも雰囲気も良く、自分の気持ちも奮い立った。応援してくれたみんなに感謝だし、終わってみると大会に出て良かった」。

ロンドン五輪代表を逃した12年から第一線を退き、引退宣言をせずにこの日を迎えた。7年ぶりに実戦復帰して、改めて勝負の厳しさを痛感した。「(柔道の試合は)楽しいものではなく、苦しいもの。そんな中でも自分の今ある力を精いっぱい出せた。(自己評価は)100点だったので、この日で引退する」。20年東京五輪まで残り1年2カ月-。39歳の五輪金メダリストが、生涯最後の試合を完全燃焼で終えた。【峯岸佑樹】