初優勝を狙うAシード御所実(奈良)がBシード常翔学園(大阪第2)を26-7で退け、5大会ぶりの決勝進出を決めた。前半8分にフランカー長船鉄心(3年)が先制トライ。26点リードの後半15分に今大会初トライを許すも、4試合10失点と自慢の防御は健在だ。過去3戦全敗の決勝(7日)は、昨春の全国選抜大会決勝で19-29と敗れた桐蔭学園(神奈川)との再戦になった。就任31年目の竹田寛行監督(59)率いる公立校の集大成。決勝は7日午後2時に行われる。

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常に持ち歩く黒のリュックサックを置き、竹田監督が取材室で第一声を発した。「まぐれでした」。辛口総評は4度目の決勝進出も変わらない。「スクラムは100%いかれると思っていた。1人が2つ、3つの仕事をしないと成り立たない」。勝負の肝だった。

前半8分に先制し、華麗な展開で決めた同13分のトライで12点リードを奪った。早々に主導権を握ると、相手の縦に強い攻撃を横一線の防御で封じた。合言葉は「トリプルアクション」。1つの局面で1人3つの働きを担う。失点は後半15分のトライとゴールのみ。それでも戦術担当の二ノ丸友幸コーチは「防げたトライ。この1トライで『よく守った』と思っていたらダメ」と手綱を締めた。

竹田監督は1年間、真面目な部員が増えたチームに何度も「『真面目』と『真剣』の違いをはっきりしよう」と問いかけた。真剣に突き詰めれば、そこにまだ、伸びしろが生まれる。

89年の監督就任時、部員は2人。のちに伝統となる防御を磨き、95年度に花園初出場を果たした。2年後に再び聖地の芝を踏んで以降、奈良県を古豪天理が5連覇。なぜ、また勝てなくなったのか-。答えを探そうと書店へ足を運んだ。本の題名だけを眺め、数十分歩き回った。興味を持つ、持たないの差は何か。コカ・コーラのCMに「何で飲みたくなるんだろう?」と考えた。行き着いたのが「言葉の力」。部員へ伝える言葉にこだわりがある。

この日のゲーム主将はプロップ津村大志(3年)が務めたが、主将不在の今季は複数のリーダーを中心に、全員で「真剣」の意味を考えた。この日2トライの2年生WTB安田は「満足したら決勝につながらない。日本一になるには、ここで終わったらダメ」。取材対応を終えた竹田監督は、同じ部屋に居合わせた常翔学園の野上監督に呼び止められた。

「頑張ってや。必ず優勝してや」

声の方向へ目を向けた竹田監督が首を横に振った。

「そんな、簡単にいきませんわ」

過去3度敗れ去った決勝戦。1年間の資料が全て入った重たいリュックを背負い、名将は教え子と最後の一戦に向かう。【松本航】