4度目の決勝に臨んだ御所実(奈良)が、またしても初優勝を逃した。単独で初めての頂点を目指した桐蔭学園(神奈川)に14-23で屈し、9大会ぶり2度目の優勝を許した。今季の御所実は主将を置かず、リーダー4人で自主性を重視。来年度で定年を迎える就任31年目の竹田寛行監督(59)とともに、悔しさを抱く後輩がバトンを継ぐ。

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雨にぬれた緑の芝に、黒ジャージーの男たちが膝をついた。新しい道を開拓した1年。御所実の終着点は4度目の準優勝だった。リーダー陣4人の1人、高校日本代表候補のFB石岡は仲間と抱き合って感じた。

「60分間やりきった満足な気持ち、勝てなかった感情、みんなが包んでくれた幸せな気持ち。いろいろな気持ちがあふれました」

理想的な前半だった。開始4分、こだわりのモールで先制トライ。同16分にはCTB谷中が相手防御の合間を突き、ゴール成功で14点リードを奪った。竹田監督から「足元をちゃんと見ろよ」と送り出された後半。地に足をつけたつもりが逆襲にあった。相手に3本のトライを許し、石岡は「逃げたキックをして前に出られた。ボールを動かせば良かった」。それでも名将は目を真っ赤にして「一生懸命最後までやりきってくれた。『やればできる』とちゃんと提示してくれた」と教え子を優しく包んだ。

415日前の18年11月18日、奈良県予選決勝で古豪の天理に5-20で敗れた。1人の主将が負担を背負った前年度を糧とし、翌19日から主将不在で始動した。部員で決めたスローガンは「プロアクティブ」。全員で足を前へ踏み出す意識を共有し、ミーティング中には「2人1組」で、互いの意見を伝え合う時間に重きを置いた。竹田監督は結果以上に過程の価値を語る。

「授業していても、昔はうそでも『はい!』って手を挙げて、当てたら『分かりません』とね(笑い)。今はそれもしないし、うまくいかなかったら誰かのせい。すねて、逃げる。コミュニケーション能力は将来に必要なことでしょう」

昨年12月、毎年恒例の「御所ラグビーふぇすた」では御所実に約2000人が駆けつけた。部員は地域の子どもたちにラグビーを教え、疲れていても、笑顔で運営を担った。この日、閉会式直後の石岡が言った。

「もう後戻りはできない。次は後輩たちが優勝して笑顔で終われるように、少しでもサポートしたい」

部の伝統、いや「文化」は必ず、悲願成就の土台になる。【松本航】