19年世界選手権代表の水沼尚輝(24=新潟医療福大職)と川本武史(26=トヨタ自動車)が、そろって五輪代表に内定した。後半に強い水沼はラストで逆転して優勝。日本記録51秒00に迫る51秒03で初の五輪を決めた。前日の準決勝で日本記録に並んだ川本は51秒25で2位に入った。元五輪平泳ぎ代表の高橋繁浩氏が世界トップレベルのレースを分析し、2人の五輪本番での活躍を願った。

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見応えのあるレースだった。持ちタイムなら水沼と川本だが、今大会好調な松元も迫っている。このレースにかける2人に対し、すでに自由形で五輪を決めている松元は気持ちも楽。水沼と川本が本来の泳ぎができなければ、松元が割って入る可能性もあった。

準決勝で川本が出した日本タイが、水沼にプレッシャーを与えてもおかしくなかった。しかし、水沼は自分の泳ぎを貫いた。50メートルの折り返しは23秒85、23秒61の川本に先行されたが、慌てない。自信を持っている後半で川本に追いつき、最後は差し切って日本記録に0・03秒と迫る好タイムで五輪出場を決めた。

前半の入りは悪くなかった川本は、最後で五輪を意識したか。終盤追い上げてくる松元が意識して、固くなった。前半のリードを保つことができずに2位。それでも、51秒25でまとめたとことに成長がみえた。

水沼はパワフルな泳ぎが持ち味。ドルフィンキックが武器の川本に対し、プル(腕のかき)も強い。上下動の大きい泳ぎは粗削りだが、筋力を生かした水沼らしいもの。後半の強さを生かしつつ前半の入りが少し早くなれば、まだまだタイムは伸びそうだ。

水沼と川本、ともに五輪内定までの道のりは楽ではなかった。競泳は、多くの選手が高校時代から活躍している。今回の代表もほとんどが全国制覇やメダルの経験を持つ。しかし、水沼は高校総体100メートルバタフライの予選9位が最高。それが、大学で急成長して五輪代表までになった。

高校の有力選手は、大都市圏の強豪大学に集まる。高校まで「無名」の選手が地方の大学で努力と重ね、五輪切符をつかんだことに価値がある。後に続く選手にとっても、日本水泳界にとっても大きいと思う。

萩野、瀬戸らの「黄金世代」の一角として中学時代から活躍してきた川本も、前回リオ五輪を逃した後は苦しんできた。前半は強いものの、ラスト5メートルで失速する。前半遅いと、ラストが伸びない。試行錯誤を繰り返し、ようやく2月に5年ぶりの自己ベスト。長く飛躍できなかっただけに、所属など周囲のサポートへの感謝は大きいはずだ。

遅咲きの水沼と回り道した川本。追い込み型の水沼と先行型の川本が競い合えば、まだタイムは伸びる。長く王座に君臨したフェルプスの世代が去った男子バタフライは大混戦。2人にはメダル圏内の50秒台が見えている。(84年ロサンゼルス、88年ソウル五輪平泳ぎ代表)