<フィギュアスケート:グランプリファイナル>◇第2日◇6日◇マリンメッセ福岡

 羽生結弦(19=ANA)がGPファイナル初制覇を飾った。世界歴代最高点で首位発進したショートプログラム(SP)から、フリーは193・41点の合計293・25点でともに世界歴代2位とし、自己ベストも更新。昨年の高橋大輔に続く日本人2人目の覇者になった。今季2戦2敗だった世界選手権3連覇中のパトリック・チャン(カナダ)にも勝利。ソチ五輪最終選考会の全日本選手権(21~23日、埼玉)へ、大きな自信を手にした。

 聞きたくなくても聞こえてくる大歓声と、得点発表。直前のチャンの演技に沸く会場に「ミスなかったんだなと。日本語のアナウンスだったので聞き取れてしまって…」と緊張が走る。追い上げられる重圧を感じ、リンクに足を踏み入れた羽生。頭をよぎったのは、普段からの覚悟だった。「いつか、こういう演技の後で良い演技をしなければいけない時は来る」。

 絶対王者を超えるために、ひるむわけにはいかない。「若干ペースが乱れた」と冒頭の4回転サルコーで派手に転倒したが、折れない。「頑張れば何とかなる」。自分を信じた。続く4回転トーループ。力強い回転を氷上に刻む。「少し安心した」。必死に足を動かす。「本当に疲れた。こんな体力なかったかな」。最後のスピンはよろけ、演技後は激しく肩で息をして立ち上がれない。それでも、「良い演技」はかなった。

 耳から入る情報に反応する。チャンとの出会いも同じだった。10年11月、GPシリーズのロシア杯。公式練習で未知の「音」を聞いた。世界一と言われるチャンが響かせた音。「エッジをあんなに深く倒せるんだ」。スケート人生で最大の衝撃を受けた。

 エッジとはブレード(刃)の先端。数ミリの厚みがあり、実際は板だ。一般レベルの選手はその全面を使う滑りが多いが、トップ選手はその角度を倒して線に近づける。摩擦が減り、スピード感が増し、音は静かになる。その最高峰がチャン。世界一深くエッジを倒し続けられる。羽生はジャンプを跳ぶのも忘れて見入った。「どうすればああなれるんだろう」。

 その答えがカナダへの移住だった。チャンが10代まで育ったクリケットクラブを去年4月から拠点にした。あの音に近づくため、そしていつか超えるため。そして1年半。「だいぶ滑るようになった」。この日のフリー、スケート技術などを示す演技構成点はすべて9点台。成果はチャンを倒したことが物語っていた。

 この優勝でソチ五輪出場枠を争う日本男子の中で優位に立った。「条件はクリアしたと思っている。次の試合につなげられた」と最終選考会となる全日本選手権に備える。今日7日が誕生日で「やっと18歳が終わるんだな。ちょっとホッとします」。18歳最後の日は、19歳でのさらなる栄冠へとつながる意義ある日となった。【阿部健吾】