日本代表選手の「こだわり」に迫るシリーズ第3回はSO田村優(29=キヤノン)。クールな司令塔の原点は、幼少期から夢中になったサッカー、ラグビーの基礎を教わった国学院栃木高時代にある。キック、ラン、パスの3つを常に準備する、田村流のゲームコントロールに迫った。

多くは語らない。「気持ちでどうのとか思ったことがない」と精神論も嫌う。日本の“10番”は、卓越した技術と、内に秘めた闘争心でチームに攻撃のスイッチを入れる。ジョセフ・ヘッドコーチが「日本で一番のSO」と絶大な信頼を寄せる、田村。そのこだわりは、「パス」「キック」「ラン」の3つを、選択肢として常に持つことだ。

ボールを保持すれば、ゆったりとした独特の空気をまとい、攻撃を演出する。イメージは「ジャンケン」。「何をしてくるか分からないから相手は迷う。大事にしているのは、どんな状況でも3つのオプションを持ち、そこから最善の手を選ぶこと。それが自分の強みだと思っている」。

今年6月のイタリア戦では、その変幻自在のタクトでファンを酔わせた。攻撃的なパス回しでBK陣をコントロールすれば、見せ場は後半17分。敵陣左中間でボールを受けた瞬間に、右タッチ際でボールを呼ぶフッカー堀江の声に反応。相手からのプレッシャーがかかる中、高さ、スピードとも完璧な約40メートルのキックパスを通し、鮮やかなトライを演出した。相手が距離を取って守ってくれば、今度は力強いランで前進。欧州の強豪をあざ笑うかのような「グー、チョキ、パー」で、勝利をたぐり寄せた。

万能型の司令塔としての能力は、5歳で始めたサッカーが育んだ。影響を受けたのは、ボールを受ける前の「周りを見る」動き。密集からの配給役であるSHからボールを受ける前の数秒間に、田村ならではの2つの駆け引きがある。

1つは立ち位置。「考えているのは、相手が目を離している間に少し位置を変えること。僕は足が速くないから、その空間が重要。相手が気付いた時にはいない。そんな危険な場所に常にいたい」。もう1つは想像力。「パスを受ける位置に入れば、相手の前後左右の状況を確認し、次に何が起こるかを何パターンかイメージする。大事なのはボールをもらう前。良い準備が良い選択につながる」。

ラグビーを始めたのは、意外にも遅く、強豪国学院栃木高に入ってから。サッカーで鍛えたキック力は、入学当時から全国レベルだったが、将来性を感じた恩師吉岡肇監督は、キック頼みのプレーを許さなかった。BKではSH以外すべてのポジションでプレー。教えは「右にも左にもパスができて、空いているスペースがあれば蹴る。前が空いていれば走る」(田村)とシンプル。だが、ボールを拾う時のつま先の角度にまでこだわる「基本」重視の指導法が、田村のSOとしての幅を大きく広げた。

「3年間で基礎スキルを徹底的に学んだことで、パス、キック、ランの3つをミックスして考える現在のプレーの土台ができた。曲げずにやってきて正解だったと、今になって思う」

ドリブルを得意としたかつての点取り屋は、走って、投げて、蹴って、勝利のために味方を生かす。田村の選択が、日本の未来を握っている。【奥山将志】

田村優プロフィル
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