知ればラグビー通へと1歩前進するワードを解説するシリーズ第3回は「オフロードパス」。タックルを受けながらパスをするプレーで、ノックオンなどのミスが起こりやすいが、成功すれば攻撃の流れを加速させることができる。日本代表も練習に多くの時間を割くなど、攻撃面において重要なスキルになっている。

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11年大会でニュージーランド(NZ)代表CTBソニービル・ウィリアムズは、タックルを受けて相手にしがみつかれても、左右から2人同時に絡まれても、片手だけでパスを通し続けた。タックルを受けながら、倒れる前にボールを片手でパスする「オフロードパス」でNZを優勝へ導き、「ミスターオフロード」と呼ばれるようになった。

ボールは両手で持つ。パスは両手でする-。これが日本の常識だった。片手では精度が落ちる。精度の低いパスはノックオンを誘うだけでなく、相手にパスをカットされるインターセプトにもつながる。体の小さい日本人には、リスクが大きいプレーとされてきた。

オフロードパス
オフロードパス

しかし、時代は変わった。京都工学院高(前伏見工高)を監督して2度の花園優勝に導いた、高崎利明ゼネラルマネジャーは「昔は『片手でパスしたらあかん』と教えてきた。それが『ちゃんとパスを放れるんであればOK』に変わった」と話す。11年大会以降、世界的プレーヤーらが、ハンドオフで相手をかわし、もう片方の手でパスをする場面が急増。世界のスタンダードに倣う部員の意思を尊重し、両手論を押しつけることもなくなった。

現在の日本代表も重要プレーの1つと認識し、オフロードパスの練習に多くの時間を割く。プロップの三上は「世界で勝つためには必要なスキル。ただボールを持って真っすぐ当たるだけなら相手は怖くない」。NO8姫野は「昔は日本人は小さいし、オフロードできない、手が短い、という考えが多かった。オフロードの練習はしてこなかったし、弱い前提で練習をしていた。そんなことはない。日本人でもやれる」と話す。肉弾戦が持ち味のFWにも、BKと同じようなパススキルが必要な時代になった。

オフロードのロードは「荷(Load)」という意味。タックルを受けながらも、運んでいた荷物を降ろすようにパスをすることが由来になっている。防御網が強固になる現代ラグビーにおいて、オフロードパスは突破のための重要なスキルだ。日本では浸透していなかったからこそ、世界で勝つために必要なスキルになっている。【佐々木隆史】