公益財団法人に移行した日本相撲協会は1月31日、東京・両国国技館で新法人の理事候補を決める選挙を行い、協会NO・2の事業部長を務める九重親方(元横綱千代の富士)がただ1人、落選した。現職NO・2の落選は異例。

 九重事業部長が、理事の座を失った。全親方で一番最後の午後1時49分に投票会場入り。約1時間後に開票が終わると、うつむき加減に歩きながら「不徳の致すところです」とひと言。普段の豪傑ぶりとは違い、寂しげに言葉を発して肩を落とした。

 理事候補には定員10人(外部理事を除く)に対し、11人が立候補。九重親方は5票しか獲得できず、当選者で最少だった元理事の友綱親方(元関脇魁輝)の7票に及ばなかった。

 事業部長の落選は、68年初場所後の理事選挙開始以降、24度目で初。現役時代に「ウルフ」の愛称で親しまれ、史上2位の優勝31回。角界初の国民栄誉賞にも輝いた。北の湖理事長が病気休場中だった初場所は理事長代行も務め、ファンの人気は親方屈指。12年2月から同職に就き、取り仕切り役だった実務者の落選は、協会運営への影響も懸念される。一般的に波乱とみられるが、角界の力学が落選につながった。

 相撲界では、一門内で理事選の候補者を立て、事前に票割りを決めて投票するのが慣例だ。高砂一門は、現広報部長の八角親方(元横綱北勝海)を第1候補に擁立。九重親方の豪傑すぎる言動への反感もあり、支持は八角親方に集中した。九重支持は部屋付きの佐ノ山親方(元大関千代大海)ら4人とみられていた。

 また、執行部ながら“反北の湖”の姿勢をうかがわせ、次期理事長の座を狙っている話も出回った。友綱親方も伊勢ケ浜一門内の支持は少なかったが、危機感を募らせた北の湖派から支援を得た。その結果、出羽海一門や時津風一門からは、各一門出身者へ投じる以外の余った票を獲得した。

 午後5時すぎ。業務を終えた九重親方は「しょうがないじゃない」とサバサバした様子で国技館を後にした。新理事の体制は、春場所後の評議員会で決議後、移行する。同親方は、役員待遇となる可能性が高い。

 ◆九重貢(ここのえ・みつぐ)元横綱千代の富士。本名は秋元貢。1955年(昭30)6月1日、北海道松前郡福島町生まれ。70年秋場所初土俵。75年秋新入幕。81年秋から横綱に。通算1045勝。優勝31回。三賞7度。金星3個。91年夏場所限りで引退後、年寄陣幕襲名。92年4月に九重を襲名し部屋の師匠に。08年2月に理事初当選。広報部長、審判部長、巡業部長などを経て、12年2月から事業部長。家族は夫人と1男2女。現役時代は183センチ、127キロ。