<東京6大学野球:慶大7-0東大>◇第2週初日◇17日◇神宮

 慶大初のプロ出身監督、江藤省三監督(67)が男泣きした。左腕竹内大助投手(2年=中京大中京)が東大戦でリーグ史上22度目(21人目)のノーヒットノーランでリーグ戦初勝利を飾った。9回106球で、3四球を与えたが13奪三振。高校-大学の後輩から、うれしい勝利をプレゼントされた。開幕戦でのノーヒットノーランは41年春の慶大・高塚誠治以来69年ぶり。慶大投手では89年秋に東大2回戦で達成した若松幸司投手以来、41季ぶり7人目になる。選手、監督ともリーグ戦初戦の朝は、尾頭付きのタイで出陣。04年秋以来の優勝へ、縁起のいいスタートになった。

 殊勲の竹内からウイニングボールを受け取った江藤監督は、号泣していた。中日で活躍し2年前に亡くなった兄慎一氏(享年70)が1月に野球殿堂入りした際も男泣きした。「あいつがこれ持ってきてくれて、うるっときたよ。プロではそんなことなかった。アマチュアは純粋だからね。年のせいかな」と、高校-大学の後輩の厚意に目頭を熱くした。

 昨年12月、慶大初のプロ出身監督として就任した。昨秋リーグ2位からの巻き返しを図るチームに、徹底した実力主義を導入。竹内ら投手陣は、主力が抜けて全員が神宮未勝利だった。「みんな横一線。誰が出てもおかしくないぞ」と競争心をあおった。ここで火が付いたのが竹内だった。中京大中京時代の背番号は10で、先発した3年春のセンバツは初戦敗退。高校、大学と完投すらしたことがなかったが「経験がなくても投げさせてもらえる。めっちゃチャンスだと思いました」と発奮した。

 2年生ながらチームの中心の自覚を持ち、オフ期間に体重を3キロ増やした。最速は142キロだがカーブ、スライダー、チェンジアップを丁寧に投げ分ける。両親が共働きの高校時代、「特技は料理」とボールのみならず包丁を握っていた器用さが生かされているのかもしれない。

 リーグ戦登板は昨年9月の立大戦以来だった。前日には昨年のエース中林伸陽(22=現JFE東日本)から電話をもらった。「頑張れ」と激励を受け、緊張感も高まった。そんな緊張を和らげたのは、江藤監督だ。試合中はベンチに笑顔があふれ、竹内は「監督がいつも冗談とかで明るく盛り上げてくれるんで、それにのっかってる感じです」と笑ってみせた。

 就任から5カ月足らずで、選手との深い信頼関係を築き上げた江藤監督。守り勝つ野球を目指しており「選手が的確に動いてくれた。自分の思い描いたような勝ち方ができました」と満足そうな笑みを浮かべた。次の“号泣”は、04年秋以来の優勝を決めたときかもしれない。【鎌田良美】