鳴尾浜球場に想像を越えたルーキーが出現した。中日遠藤一星内野手、右投げ、左打ちの選手だ。身重182センチ、体重78キロ。均整のとれた体。バッティングはシャープで、守備での動きは機敏だ。26歳。高校(駒場学園)大学(中大)社会人(東京ガス)と場数は踏んでいるが、ドラフトの指名順位が7位。年齢的に見て即戦力として獲得したのはよくわかるが、どうしても指名順位と1軍の即戦力にはギャップを感じる。中日ファームは今回の対阪神戦が開幕ゲーム。首脳陣がどんな起用をするかで遠藤の存在は浮き彫りにされる。特にこの点を注目してみた。

 初戦から「1番遊撃手」でスタメン出場した。3連戦いずれもフルイニングの出場だ。これでチームの期待度ははっきりした。

 実力のほどはわかってきたが、それ以前に年齢からくるプロ入りの戸惑いはなかったのか。近年、選手寿命は伸びているとはいえ、東京ガスに勤めていれば将来の生活は保障されている。なのに、あえて厳しいこの道を選択した。野球選手として、その世界の最高レベルを誇る場所で勝負したい気持ちは持ち続けていた。いわゆる“男のロマン”である。「人生は一度しかありませんから戸惑いはありませんでした」。すがすがしい表情でこう語った。もう、プロの顔になっている。ハンカチ王子(日本ハム・斎藤佑樹)世代のオールドルーキーとはいうが、ノンプロ時代には日本代表選手に選ばれた実力の持ち主。

 遠藤のレベルは…。高柳野手総合打撃コーチと、渡辺内野守備走塁コーチに話を聞いてみた。

 まずは高柳コーチ「いいセンスの持ち主ですね。バッティングは、もうフォームは固まっていますし、1軍レベルに近い力を持っています。攻、守を総合しても1軍は近いですね」と見ている。

 渡辺コーチはこうだ。「現状での課題は守りですね。動きは悪くないし、グラブさばきにも欠点はありませんが、問題をあげるとするなら右足の動きですね。ちょっと出るのが遅い。今の右足の動きだと、足の速い左バッターの打球が三遊間のやや深いところに飛んだら、まず一塁で刺すのは無理でしょう。ほんのわずかなことですがね。走塁に関しては問題ありません」。両コーチの話を総合すると-。

 ひょっとして1軍の開幕戦。スタメンに名前を連ねている可能性があるようにも聞こえた。鳴尾浜球場での対阪神3連戦、じっくり見せてもらった。初戦はというと、あの話題のドラ1ルーキー横山が相手。緊張の初打席だったと思うがなんなくストレートの四球。2打席目は変化球を右前に運んだ。2人の対戦を見ているとどちらが“ドラ1”でどちらが“ドラ7”かわからない結果が出た。並の新人ではない。2戦目、今回の相手は1軍経験者、左腕の筒井だったが初打席で左前打。3戦目は歳内。右翼線二塁打と左越え三塁打の2長打を放って2打点の活躍。チームの勝利に貢献した。

 「まだ3試合終わったばっかりですから-。これから先の方が長いですし、1シーズンを通していいプレーができる体力をつけないといけません。現状はまだ手探りの面もありますし、頑張るしかありません。でも、3試合ともヒットは出ましたし、気持ちの上では多少楽になりました」

 最後のひと言でやっと笑顔がこぼれたが、新人らしからぬ落ち着いたプレーはひのき舞台でも見劣りはしない。この世界に飛び込んで約3カ月。遠藤にプロの水はどう映ったのだろう。「ノンプロ時代は会社の仕事もあって、野球ばかりをしていたわけではありませんが、プロはやっぱり、本当に野球漬けですね。約3カ月程度ですが、まわりの人を見ていると皆さんレベルが高い。そういう意味で我々、力をつけるためには野球漬けは大歓迎です。目指すは1軍です」。力強く宣言してくれたが、現在の中日にはショートのレギュラーはいない。ドラフト7位の選手が開幕スタメンを飾るか。あり得る。注目したい。