甲子園の土は、いらない。第97回全国高校野球選手権大会で、早実(西東京)のスーパー1年生・清宮幸太郎内野手が、涙で聖地を去った。仙台育英(宮城)との準決勝で、プロ注目の最速146キロ右腕・佐藤世那(3年)の前に内野安打1本と沈黙した。高校公式戦初の完封負けで、高校1年の夏が幕を閉じた。

 こらえていた涙が、あふれ出した。4万7000人の大観衆に拍手で見送られた清宮が、目を真っ赤にしながら何度も聖地のグラウンドを見つめた。

 「泣くつもりはなかったんですけど、この球場で今年は野球ができないんだと思った。(引き揚げる時に)甲子園が見送ってくれているような気がして…。本当にありがとうございました、という気持ちでした」

 完敗を認めたくなかった。初回、1死一塁で外角高めの140キロ直球を打ち損じ、公式戦高校初の併殺打に倒れた。3回の第2打席に二塁への内野安打で今大会5試合連続ヒットを記録したが、8回の第4打席はフォークを打ち上げた。「球速以上にキレがあった。全然打てない感じではなかったけど、経験の差はあった。うまく抑えられてしまった」と淡々と振り返った。17日の準々決勝で左手を痛めた影響は「大丈夫です」と否定。佐藤世に自分のスイングをさせてもらえなかったのか、と問われると「いや、悔しいんで。もっとできたと思う」と強がった。

 頂点を極められなかった悔しさばかりが募った。1年生の2本塁打、8打点はPL学園(大阪)桑田と並ぶ歴代1位。打率4割7分4厘を残しても「ここまで来て負けた経験はない。壁とは思っていないけど、ああいうピッチャー(佐藤世)を打てないと、全国制覇なんてできないと痛感した」。夏の終わりを告げる、初めて聞いた相手の校歌には「本当に悔しかった。負けてしまったと実感した。あの光景は忘れたくない。このままじゃ終われない」と雪辱を誓った。甲子園の土は「また絶対に戻ってくるんで、いらないです」と目もくれなかった。

 挫折を力に変え、進化を続けてきた。中1の冬、強烈なスイングに体が追いつかず、腰を疲労骨折した。体を鍛え、けがを予防する大切さを早々に学んだ。バットを振れない代わりに取り組んだ体幹トレーニングやストレッチは、今でも欠かさない。清宮にはあと4度、甲子園出場のチャンスがある。「次はチームの軸になる。もっとパワーをつけて、自分がチームを引っ張って連れてきたい」。この負けが日本一への遠回りではないことを、必ず証明してみせる。【鹿野雄太】