2年連続出場の北海道栄が、涙のミラクル劇で4強一番乗りだ。3点を追う9回、守備の乱れに乗じて押し出し四球と一塁強襲の内野安打で1点差に詰め寄ると、2死満塁から3番公平銀仁郎二塁手(2年)が三塁手の手前でイレギュラーバウンドする逆転の2点左前適時打。夏春連続甲子園を狙った白樺学園に逆転勝ちで、9年ぶりの準決勝進出を決めた。

 3点を追う9回、相手のミスをきっかけに1点差に迫って迎えた、2死満塁の打席だった。外角の真っすぐを引っかけた北海道栄の公平は「サードゴロかと思った」。台風23号の影響で試合途中から降り始めた雨と風は、次第に強さを増していた。水を含んだグラウンドは、時に奇跡を演出する。三塁手の手前で跳ねた打球は、わずかに向きを変えて左翼手の前へと転がった。三ゴロで試合終了が一転、逆転の2点適時打に。「去年の秋も、今年の春も、僕が最後の打者だった。ヒットだと分かった瞬間、涙が出ちゃいました」と、ヒーローは感極まった。

 守備力の差が、明暗を分けた。気温10度以下。小雨に加え、くるくると向きを変える強風に苦労した。悪条件の中で、失策は1つだけ。4併殺で接戦に持ち込み、勝機を待った。勝ち越した直後の9回2死一塁の守備では、加藤泰行右翼手(2年)が「風で少し押し戻されるのが分かっていた。迷いはなかった」と、右中間へ飛んだ安打性の打球をダイビングキャッチ。最後まで途切れなかった集中力、練習に裏付けされた守備への自信と勇気が、勝負どころで花開いた。

 旧チームからのメンバーが7人残る。昨秋の全道、今夏の南大会ともに北海に初戦敗退。2年生が入学してから、激戦の室蘭地区予選で敗れる時は、ことごとく1点差だった。「この1球」を合言葉に始まった新チームでは、1球ノックを受けるたびに渡辺伸一監督(43)から指導が飛んだ。「点を取られなければ負けない。守備の徹底事項を増やした」と公平。旭川入りした2日、同じような強風の中で敢行した練習試合も、良い予行演習となった。

 9年ぶりの4強入りで、初の頂点へ前進だ。1球の重みを何度も説いてきた渡辺監督は「選手が誰ひとり諦めていなかった」。執念のミラクル劇で、勢いに乗れるか。【中島宙恵】