<センバツ高校野球:東海大相模6-1九州国際大付>◇3日◇決勝

 東海大相模(神奈川)が、記録的な猛打で11年ぶり2度目の優勝を飾った。主将で4番の佐藤大貢捕手(3年)が5回に2ランを放つなど14安打で、九州国際大付(福岡)に完勝した。1回戦から5試合での通算74安打は、戦前の1939年(昭14)に東邦商(愛知)が記録した大会最多安打73を72年ぶりに更新した。東日本大震災による未曽有の被害で開催の可否が協議された大会を制し、準優勝だった昨夏の雪辱も果たした。

 もう我慢できない。最後の打者が空振り三振に倒れると、佐藤は両腕を広げながらマウンドに向かい、ジャンプして近藤に抱きついた。「はしゃいじゃいました。先輩たちから託された思いがあったので…」。昨夏の決勝で興南に大敗し、2年生ながら誰よりも激しく泣いた背番号2は、少し恥ずかしそうに話した。

 大会通算安打74、大会通算塁打113と記録ずくめの最強のタテジマ打線。その中核が佐藤だった。5回には九州国際大付・三好から左中間スタンドへ豪快な2ラン。満面の笑みで、大会通算13打点目のホームを踏んだ。「かなり気持ち良かった。球の勢いとバットの振りがたまたまマッチした。偶然です」と照れた。主砲の1発につられるように走攻守で圧倒した。

 背番号12の昨春から、ベンチで監督の隣に座ってリードを学んだ。阪神に入団した一二三を擁して準優勝した昨夏、試合出場はなかったが、一二三の調子を誰よりも正確に把握していたのはブルペン捕手の佐藤だった。門馬敬治監督(41)は「ぼくの右腕」と信頼する。決勝の長田の先発など、今大会の全試合、門馬監督に先発投手について進言した。

 前夜の宿舎。ナインが部屋の外に出ると、目の前にユニホームと1枚のメモが置いてあった。大会12安打の臼田に「今大会はお前が一番調子いい。頼むぞ」。切り込み隊長の渡辺に「決勝には勝(まさる)の力が必要だ」のメッセージ。主将として、佐藤が全員に書いた手紙だった。

 伯父の俳優柳葉敏郎(50)の妹、母乃信子(のぶこ)さん(49)は言う。「昔からサプライズが好きな子なんです」。小学校の卒業式には、校庭に石灰で「先生ありがとう」と書き、先生を感動させたこともあった。小、中、高と主将を務め、ニックネームは「ギバ兄(にい)」。人を思いやれるから人望も厚い。

 今年は一二三のようなスターはいない。夏の甲子園や、門馬監督がコーチとして同行した日米親善野球の影響で始動も遅れた。秋の県大会、関東大会は決勝で負けた。あと1歩、足りない何かを考え続けた。気迫、執着、粘り強さ…。「答えは出なかった。でも、それを追い求めるのが練習。高校野球が終わるまで、分からないままでいいです」。表情に迷いはなかった。

 大震災による未曽有の被害によって開催が危ぶまれた大会で頂点に立った。秋田生まれの佐藤は「開催を許してくれた被災地の方へ、恩返しできるのはプレーだけでした」とマイクを通して語りかけた。積極果敢な「アグレッシブ・ベースボール」で、今も苦しむ人たちの心に一筋の光をともしたはずだ。【鎌田良美】