9月に入り、プレーオフ争いもいよいよ佳境に近づいてきました。ア・リーグ東地区では、田中が所属するヤンキースが、3シーズンぶりの進出を目指して、首位ブルージェイズ(9月4日現在)を僅差で追いかけています。言うまでもなく、実績のあるスター選手が多く、投打とも間違いなくハイレベルにあるのですが、その一方で「ザ・3ラン・ベースボール」と、評されていることも否定できません。

 本拠地ヤンキースタジアムが狭いこともあり、本塁打が貴重な得点源になる傾向は、今も昔も基本的には変わってはいません。ただ、今季は走者を進めようとすることなく、最初から「3ラン」を期待して? ゲームメークするパターンが目立つのです。例えば、試合の終盤、2点ビハインドで無死一、二塁の同点機を迎えても、後続の3打者は全員が大振りするばかりです。メンバー構成上、小技のできる選手が少ないことも一因ですが、進塁させて「まずは同点」を狙うよりも「一気に逆転」を狙うのが、ジラルディ監督のスタイルというわけです。日本球界では、まず考えられない策です。

 ただ、この「3ラン」狙いが、ここまでは結果として出ているのだから不思議なものです。チーム本塁打数(4日現在)は、首位ブルージェイズの185本に次ぐ180本で、アストロズと並ぶ2位タイですが、こと3ランに限るとダントツの29本。ブルージェイズが19本、アストロズが18本ですから、いかにヤンキースの「3ラン」が突出しているか、というわけです。

 裏を返せば、それだけ豪快で勝負強く、能力の高い長距離打者がそろっている証拠なのですが、本塁打頼みで勝ち抜けるほど、ポストシーズンの戦いは甘くありません。しかも、ヤンキースの場合、失策数こそメジャー平均値ですが、失点を最小限に食い止める意識が、チーム全体として著しく欠如しています。弱肩の外野陣であっても、素早く処理すれば、無駄な進塁は防げるはずですが、そんな意識はまったく見えてきません。過去2試合の登板でこそ大量援護の恩恵を受けている田中ですが、その裏では、記録に残らない拙守の影響で、ムダな失点が何点増えていることやら…。

 いずれにしても、「打線は水もの」と言われますし、大事な戦いや短期決戦は投手次第。確かに、豪快な「3ラン・ベースボール」は魅力的かもしれませんが、正念場のシビれる一戦では、やはりエース田中の快投が頼みの綱になりそうです。【四竈衛】

(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「メジャー徒然日記」)