プレーバック日刊スポーツ! 過去の10月28日付紙面を振り返ります。1997年の2、3面(東京版)はMLBマーリンズの創設5年目での世界一達成でした。

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 【マイアミ(米フロリダ州)26日(日本時間27日)】ジム・リーランド監督(52)が、フロリダ・マーリンズを世界一に導いた。選手、監督として長いマイナー生活を経験した苦労人監督は、107億円の巨費でFA補強した個性派集団を鮮やかに統率。第7戦、延長11回で3-2とインディアンスにサヨナラ勝ちし、栄光の頂点に上り詰めた。創設5年目での優勝は、1969年に8年目でチャンピオンとなったメッツを抜く最短記録。選手を信頼し、自信を持たせるリーランドさい配が、チームを一つにした。

 リーランド監督の眼鏡が、涙で曇った。目を真っ赤にしてベンチを飛び出した。選手たちが次々と抱きついてきた。家族のいるスタンドに向けて3度ガッツポーズ。4度目には右手の人さし指を突き上げて「We won!(オレたちは勝った)」と叫んだ。

 夢だった。総力戦でガムシャラに戦った。6人の継投で、残った野手陣の控えもアリアス一人だけ。メンバー25人中、20人を起用した。9回裏、1死一、三塁からカウンセルの犠飛で追いついた。粘りが、延長11回のサヨナラ劇を生んだ。「とにかく、最後まであきらめるな、と言い続けてきたんだ」。監督の執念が、選手たちに乗り移った。

 苦労人の花が、ついに開いた。現役時代にメジャー経験はない。23年の監督歴でも、最初の11年間はマイナーだった。下積みの苦労があったからこそ、FAで集まった個性派集団を率いることができた。「一番大切なのは選手だ。選手を信頼することが必要なんだ」。徹底して選手を褒めた。敗戦の時も選手をかばった。ミスが多いシリーズだったが「彼らは一生懸命だ。悪く言われると吐き気がする」と、怒りをあらわにした。

 11回裏、負傷で満足に走れないボニーヤにも代走は出さなかった。「ほかに選手がいなかったからね」と話したが、精神的な柱となってチームを引っ張ってきた男に「サヨナラのホームを踏ませたい」という気持ちがあったのだろう。そんな優しさがあるからこそ、ボニーヤも「ジム(リーランド)と一緒に優勝したことにこそ意味がある」と、監督に抱きついた。

 パイレーツ時代は、11年間で3度の地区優勝。90〜92年には、ボニーヤ、ボンズ(現ジャイアンツ)を擁してリーグ優勝戦に出た。91、92年はいずれもブレーブスに3勝4敗と敗れ、あと一歩でワールドシリーズを逃した。「非運の名将」と言われたが「非運」のままでは終わらなかった。

 パイレーツから移ったシーズン前、FA移籍した選手たちを前に「これだけの選手がいて優勝できなければクビだ」と言った。選手はその気になった。「優勝するんだ。監督は信用してくれている」と。言葉通りに選手は働き、監督は「名将」になった。「この優勝は、マイナー選手にささげる。メジャーを夢見る選手の希望になっただろう」。監督らしい言葉だった。

 「最後は、何が何だか分からなかった」。ウイニングランの先頭に立って、スタンドのケーティ夫人に何度も投げキスをしてみせた。52歳で、6歳の息子と4歳の娘のパパ。アッパレ! リーランド監督。地元ファンは、いつまでも大きな大きな拍手を送った。

◆「優勝は金で買える」107億円補強で成果

 優勝はお金で買えた。大リーグ屈指の金脈球団、マーリンズの優勝は、今シーズン前の107億円かけた補強の成果だった。マ軍のウェイン・ハイゼンガ・オーナー(59)は「お金のことは心配するな」が口ぐせ。「優勝は金で買える」という哲学を、見事に実現させた。

 同オーナーは、全米最大のレンタル・ビデオチェーン「ブロックバスター・エンターテイメント」社の会長。フロリダに本拠を置くNFLのドルフィンズ、NBAのヒートのオーナーも務める実業家だ。金に糸目をつけずにリーランド監督をはじめ、ボニーヤ、アルーらを獲得。わずか5年で、世界一の座を獲得した。

 同オーナーは、6月に突然球団売却を発表した。理由は「フロリダは野球不毛の地」と「慢性的な赤字」だ。ところが、躍進で気が変わったのか、25日には「公営の開閉式屋根付き野球専用球場ができれば売却はしない」と発言した。

この日の試合後、金満オーナーは「金で選手を集めたと言われるけれど、そんなことはない。若い選手が活躍したからこそ優勝できたんです」と、ファンにあいさつした。大金を投じて獲得した選手が思い通りに働き、心の底から満足そうな笑みを見せていた。

◆ワイルドカードから優勝 王座決定方法に疑問の声

 ワイルドカードのマーリンズが優勝し、王座決定方法に疑問の声が上がっている。マ軍は地区Vチーム以外の最高勝率チーム(ワイルドカード)として、プレーオフに進出した。プレーオフは本来なら、地区Vチームに有利なシステムが取られてもおかしくない。ところが、95年から実施されている現行のシステムでは、ワイルドカードも地区Vチームと同等の条件で戦える仕組みになっている。

 マ軍はレギュラーシーズンでナ・リーグ東地区2位。92勝70敗の成績は立派だったが、同地区1位で101勝のブレーブスに9ゲームも引き離された。それでも、扱いは同じだ。

 NFLやNBAではレギュラーシーズンの成績がプレーオフに反映され、本拠地開催権が増えるなどの優遇措置がある。しかし、大リーグは過酷なレギュラーシーズンを勝ち抜いた価値が反映されず、ワールドシリーズでもワイルドカードのマーリンズが本拠地で4試合を戦った。

 ワイルドカードはいわば敗者復活。このままでは、レギュラーシーズンで力を温存し、プレーオフだけにかけるチームが出てくる可能性もある。地区Vチーム優遇へ、セリグ・コミッショナー代行は「何らかの差別化を図るべきだろう」とシステムの見直しを口にした。

※記録と表記は当時のもの