<レンジャーズ6-0アスレチックス>◇7日(日本時間8日)◇レンジャーズ・ボールパーク

 【ダラス(米テキサス州)=広重竜太郎】松井秀喜外野手(37)が所属するアスレチックスと建山義紀投手(35)が所属するレンジャーズとの試合で、ファンの転落死亡事故が起きた。2回にレ軍ハミルトン左翼手がサービスで左翼席に投げ入れたボールを、男性ファンが飛びついて捕球した際にスタンドとフェンスの間にある溝部分に転落。頭部などを強打し、死亡した。試合は6-0でレ軍が勝利したが、悲しみが両軍をつつんだ。

 野球を愛するがゆえの悲しい事故が起きた。2回、ア軍ジャクソンの放ったファウルボールをレ軍のハミルトン左翼手が拾い、ファンサービスでレフトスタンドに投げ入れた。昨季ア・リーグMVPに輝いた英雄の記念品を捕ろうと、1人の男性ファンが素手でキャッチ。だが次の瞬間、勢い余ってバランスを崩した。身を乗り出した体が腰の高さまでしかない手すりを越えた。隣の観客が必死に手を伸ばしたが届かず、約6メートルの高さから、頭から真っ逆さまに転落。愛息が隣にいた中での悲劇に、周囲からは悲鳴が起きた。

 落ちたのは、スタンドと他球場経過を伝える掲示板の間。約1メートルの幅しかなく、落下しながら受け身の姿勢に持ち直せるほどのスペースもなかった。男性は出血したが、当初は意識はあった。担架に乗せられながら「息子も来ている。息子のことを頼む」と周囲に依頼した。だが、病院に搬送される中で容体が悪化し、帰らぬ人となった。レ軍は男性の氏名を非公表としたが、地元紙によると消防士のシャノン・ストーンさん。死亡は落下から約50分後だった。

 選手に死亡の情報が入ったのは試合後だった。松井も「ただ残念です。それだけです」と表情をこわばらせた。ア軍救援陣は試合中から激しく動揺していた。落下場所はブルペンから約20メートルの距離。一部始終を目にした。試合中は血痕の残る通路を通ってリリーフへ向かった。それだけに試合後、死亡したことを聞くとジーグラーは号泣した。「彼は話していたし、意識もあった。こんなことになるなんて、つらすぎる」と目を赤く腫らした。

 衝撃はレ軍も同様だった。試合後はクラブハウスを非公開にして取材対応しなかった。通算奪三振の大リーグ記録を持つノーラン・ライアン球団社長は「遺族には言葉が見つからない。ハミルトンも、ほかの選手も衝撃を受けている」と話した。ハミルトンはかつて麻薬、アルコール依存症に侵され、精神的に心配な面もある。ワシントン監督は今日8日の出場に対し「彼が望むならば休養日を与えたい」と、おもんぱかった。

 5月には、ロッキーズ-ダイヤモンドバックス戦で27歳男性の転落死亡事故が起きたばかり。レンジャーズ・ボールパークでは、94年の開場以来3件目だが、死亡事故は初めてとなった。ほぼ1年前の7月6日も消防隊員の男性が転落した。選手とファンの距離が近いからこそ起きた悲劇的な事故。本場の野球の空気に触れている松井と建山にとっても、心が痛んだ1日だった。