虎のくせ者、参上! 阪神上本博紀内野手(28)が5打数4安打の固め打ちで14安打猛攻の主役を担った。加えて西武投手陣に、全体の17%にあたる33球を投げさせるくせ者ぶりも披露。エンドランあり、進塁打あり、盗塁あり。身長173センチの小兵が1番鳥谷、3番西岡の試行中オーダーに、絶大な爆発力を呼んでいる。

 2番打者の力が最も問われる場面がやってきた。初回無死一塁。1日を通して上本にバントの選択肢はなかった。3球でカウント1-2と追い込まれる。それでもフルカウントに持ちこんだ。一塁走者鳥谷がスタート。上本はその8球目を鮮やかに右前に運んだ。

 「(2番という打順を)そんなには考えていない。(打撃の)感覚は分からないですけれど、1打席1打席を必死にやるだけです」

 鳥谷が三塁に行き着いて無死一、三塁。そんな最高の形を4回にも再現した。2死一塁、追い込まれながらフルカウントに持ち込むと、7球目を中前に運んだ。1回同様に一、三塁が出来上がる。3球で追い込まれる窮地を、こうはね返すのだ。5打席で投げさせたのは33球。相手はへとへと。それでいて打率5割2分4厘とくれば嫌で嫌でたまらないはずだ。

 「たくさん投げさせても結果が悪かったら意味がないので。たくさん投げさすのを考えてはないです」

 粘りが導いた最高の結果も、満足することはない。上本は試合後、ニコリともせずにクラブハウスへと続く階段を上った。一方、周囲の賛辞は止まらない。今季初のオーダーがはまった和田監督は「全打席内容のある打撃だった。2番には待つタイプと攻めるタイプがあるけれど、どっちもできる2番打者だね」。2番を知り尽くした監督の口調は自然と滑らかになった。

 西岡との二塁争いが注目されていた2月のキャンプ。そんな周囲の目をよそに着々と準備を進めてきた。フリー打撃を行う際、3カ所ある打席すべてで打ち方を変えたこともあった。タイミングの取り方や、バットを握る位置の調整。1人黙々と繊細な感覚を確かめた。そんな姿にも関川打撃コーチは「最後は去年のようになっているかもしれない。それでも細かいことを考えるのはいいこと。本人が考えているから」と信頼を寄せていた。開幕まで残り20日。もう上本2番に異論を唱えるものはいない。

 「今日は(右打ちなどが)できていたけれど、これからも必死にやらないといけない」

 走っては2盗塁。やっかいな「くせ者」なくして、今の打線は語れない。【松本航】