巨人のドラフト3位高木勇人投手(25)が、55年ぶりの快挙で開幕カード勝ち越しを決めた。プロ初登板ながらDeNAの強力打線を強気に攻め、6回を2失点。打線の援護も受け、プロ初勝利を挙げた。開幕カードでの新人先発勝利は、1960年(昭35)の堀本と青木以来55年ぶり。5度の指名漏れの末に三菱重工名古屋からプロ入りした苦労を実らせた。

 新人らしからぬ、緻密な投球だった。5回2死。高木勇は、2戦連発中の筒香を迎えた。前打席では、2ストライクから内角140キロの勝負球を適時打にされた。同じ失敗は許されない。「ここで崩れたら何の意味もない」。内角のゾーンギリギリに2球続け、102キロのカーブで崩した。3番梶谷との前日計8安打コンビを1安打に抑えてプロ初勝利。「自分のボールを信じて、気持ちを込めて投げました」との言葉とは裏腹に、味のある投球術でDeNA打線を封じ込めた。

 三重・海星高を卒業後、社会人の三菱重工名古屋で7年間を過ごした。練習前に一緒に働く人たちの姿を目の当たりにし、野球への意識が変わった。「『この1球で会社がなくなるかもしれない』と思って投げていた。会社がなくなるとみんなが困るし、自分の投げる場もなくなる」。自分の投球には、多くの人の生活が懸かっていると言い聞かせるようになった。「アマチュアで最もシビアな世界で野球をしてきました。必死でした」。危機感を忘れず、打者を抑えるための多くの引き出しを生んだ。

 5度のドラフト指名漏れも、勝負勘を磨く要因となった。「人間万事塞翁(さいおう)が馬(人生における幸不幸は予測しがたいので、安易に一喜一憂しないこと)」という言葉が人生訓。だからこそ指名漏れでも、人前で涙は見せなかった。「今一生懸命やるのが自分なんです」。開幕カード勝ち越しが懸かるプロ初登板でも、自分を貫けるメンタルが備わっていた。

 ふてぶてしく君臨したマウンドを降りると、急にルーキーらしくなった。お立ち台で「こんなに気持ちいいとは思わなかったです」と笑ったのもつかの間、「やっと…」と言葉につまった。「今まで頑張ってやって来て本当によかったです」。V4を目指す巨人に、ほかの新人とはひと味違う、実力派の頼れる先発投手が加わった。【浜本卓也】

 ▼高木勇が初登板を白星で飾った。巨人の新人で初登板初勝利は05年5月1日野間口(5回コールドで完投)以来12人目。開幕カードで記録したのは69年4月14日吉村以来だが、吉村はリリーフ勝利。開幕カードで先発デビューして勝利投手は、60年4月3日の国鉄ダブルヘッダーで第1試合に堀本、第2試合に青木が完投勝利して以来、55年ぶりだ。打っては5回にプロ初安打。巨人の新人がデビュー戦で「勝利投手+安打」は1リーグ時代の42年9月27日藤本以来、73年ぶり。2リーグ制後の新人では球団史上初めてだった。