背水の力投で半世紀ぶりの扉を開いた。DeNA井納翔一投手(29)が、粘りに粘った投球で今季初の完投勝利を挙げた。1回の1死満塁のピンチをしのぐと、7、8回以外は毎回走者を背負いながらも、1失点で踏ん張り、最後まで投げきった。完全アウェーの敵地で連勝し、チームは球団史上51年ぶりの7カード連続の勝ち越しを決めた。今季3度目の5連勝で貯金を11に積み上げた。

 やるしかない。勝つしかない。ただ、それだけだった。井納が36人目の打者、広島会沢をにらみつけた。外角低めに逃げる134キロのスライダーをすくわれた。「やばい…。いったと思いました」。一瞬マウンドで顔が引きつったが、フェンス手前の左飛に打ち取り、完投勝利を決めた。緊張感から解き放たれ、安堵(あんど)感で白い歯がこぼれる。控えめなガッツポーズを握りしめ「これが僕の本来の投球。点を取られたところは反省点ですが、今日はしっかりと粘れた」と今季3勝目を喜んだ。

 悔しさだけの2週間を過ごしてきた。1日の中日戦は8回途中を投げたが自身の拙守も絡み敗戦投手。前回登板の8日の巨人戦は終始精彩を欠く内容で自己最短の3回2/3で降板を告げられ、首脳陣から「緊張感が足りない」と厳しく叱責(しっせき)された。「自分の投球が分からない。どうやって投げるのかも分からなくなってきた」。弱音だけが口からこぼれた。

 極め付きは「カード初戦」からの降格だった。4日前の12日に突如、言い渡された。さらには、この日の内容次第では2軍再調整の可能性もあった。苦境に追い込まれた井納はとにかく走った。チームが新潟遠征中に横須賀の2軍グラウンドの外野をひたすら走った。「自分の考えが甘かった。もっと自分を追い込まないといけない」と無心で走った。登板前は「この1週間は考えることしかできなかった」と話したが、考えた末に出した行動は練習することだった。

 チームは破竹の快進撃で巨人のV9よりもさかのぼる51年ぶりの7カード連続の勝ち越しを決めた。好調の陰で苦しんできた井納の復調に中畑監督は「さらし者にしてやろうと決めていた。絶対代えないと決めていたし、ずっと最後までさらしてやった。信頼を自分で取り返してくれた」と親心で褒めちぎった。半世紀ぶりの快挙を乗り越えたハイタッチの輪の中心で井納が、やっと笑った。【為田聡史】

 ▼DeNAは今季3度目の5連勝で、4月24~26日中日戦から7カード連続勝ち越し。DeNAの7カード連続勝ち越しは、大洋時代の64年6~7月に次いで51年ぶり2度目の球団タイ記録だ。4月12~21日に7連敗を喫したDeNAだが、その後は○○○○○●○●○○○○○○●○○○○○と17勝3敗。20試合で17勝以上は64年6~7月の20戦18勝、97年7~8月の20戦17勝に次いで球団史上3度目の快進撃となった。また、今季はデーゲームに12勝4敗、勝率7割5分と強く、デーゲームは5月2日中日戦から7連勝中。

 ◆64年の大洋 クレス、桑田らの強力打線で開幕4連勝。6月10日から10連勝の後、1敗を挟んで7カード連続勝ち越し。前半戦は54勝30敗の貯金24で、2位阪神に6・5ゲーム差をつけ首位で折り返した。優勝まであと1勝としたが、シーズン最後で阪神とのダブルヘッダーに連敗。自力Vを断たれ、最終的に阪神(80勝56敗4分け)に次ぐ2位(80勝58敗2分け)。シーズン80勝は球団記録。