4番が接戦に終止符を打った。広島の新井貴浩内野手(38)が、延長10回1死一、三塁から中前へ決勝タイムリーを放ち、チームの借金ワースト更新を阻止した。「日本生命セ・パ交流戦」の西武戦は、主導権を握りながら、守備のミスなどで延長にもつれ込んだ。だが悪い流れを断ち切ったのは4番のバット。苦手な延長を制した広島が、新井とともに反撃ののろしを上げる。

 地響きのような声援を背に、新井が強振した打球は高く弾んだ。延長10回、中間守備の遊撃がジャンプした頭上を越える。三塁走者の丸が本塁生還。一塁側から右翼席を真っ赤に染めたコイ党から大歓声を受けた新井は、一塁ベンチに向けて右手拳を高々と突き挙げ、ガッツポーズを作った。

 「前進守備だったので、前に飛ばせば何とかなると思っていた」。

 得点の香りをかぎ分けた男の一振りだった。接戦の中、4番の新井は蚊帳の外だった。8回の4打席目まで1四球のみで快音は聞かれず。前日から8打席無安打となった。だが10回。1死一、三塁の得点機で5回目の打席を迎えた。得点圏打率4割2分2厘の男は集中力を研ぎ澄ます。初球。145キロの外角球は悠然と見逃した。続く2球目だ。同じコースへ来たスライダーを迷わずに思い切りたたき、決勝の走者を本塁に迎え入れた。

 5月に痛めた左手甲はまだ完全に癒えてはいない。試合終了後、アイシングを施した状態で球場を後にすることも珍しくない。試合で全力を注ぐ最善の努力を怠らない。前日9日に規定打席に達し、首位打者争いに加わっている。さらに勝負強さを発揮し、打点王争いにも割って入る勢いだ。「目の前の1試合、1打席しか考えていない。数字上のことは気にしていない」。ただ、チームのためにバットを振る。その積み重ねが打率3率1分9厘、31打点につながっている。

 試合は広島が主導権を握りながら守備のミスなどもあり、苦しい戦いを余儀なくされた。緒方監督は「チームを救ってくれたのは、新井のおかげ」と4番の働きに賛辞を惜しまなかった。今季借金ワーストを更新する危機を脱した。新井は「本当に勝てて良かった。最後まで誰も諦めていなかった。みんなががむしゃらに戦った結果。これを明日につなげたい」と、巻き返しを誓った。【前原淳】