谷繁さんゴメンナサイ! 売り出し中の阪神江越大賀外野手(22)が3回、一挙6得点のビッグイニングを演出した。この回、先頭で四球を選び、打者一巡を呼び込むと2打席目は中前2点打。プロ野球新記録(出場3018試合)を達成した中日谷繁兼任監督を歯ぎしりさせた。チームはヤクルトと並び首位に再浮上。ルーキーの成長が頼もしい。

 開花を予感させるルーキーが最後の最後に、とっておきのセリフを吐いた。笑顔あふれるバスへの引き揚げ際だ。「だいぶ、ボールを見られるようになっています」。この言葉を待っていた。ワンバウンドの変化球にクルクルとバットが回っていた苦闘ぶりが早くも消え、成長ぶりを示した。

 3回の第1打席。ワンボールからの2球目だ。外角低めへのスライダーにバットはピタリと止まる。2日前なら振っていた軌道だ。冷静に四球を選んで出塁すると後続が触発されてビッグイニングになる。2点リードし、なおも2死満塁で2度目の打席が巡る。山井の初球、低めシュートを思い切りシバき上げると矢のようなライナーが中前へ。2点適時打で4点リード。終わってみれば、この一撃で逃げ切った。江越は殊勲打を冷静に振り返る。

 「甘い球が来たら、思い切り行こうと思っていました。とにかく低めの球を振らないことと、浮いてきた球は積極的に行こうと思って打席に入りました」

 打率はまだ1割台だが、レギュラーへの道を突き進む。打席を重ねるごとに成長の跡が見える。6回だ。岡田を相手にヒッティングカウントの2-0になる。低め131キロにも色気を見せずに見送り、またも四球を選ぶ。5月4日に打てなかった谷繁兼任監督の配球にも、堂々と向き合った。

 低めの変化球の見極めが最大の課題だった。26日DeNA戦の試合前練習。フリー打撃の最終球も変化球をリクエスト。スカッと締めたい場面でも課題に取り組むのは、不安の裏返しだろう。この日は打つゾーンを高めに設定する対応策で臨んだ。「目付けを高くしないとボールに手が出てしまう」。首脳陣から教わった極意も吸収。投手のリリースを注意して見るのもその1つだ。関川打撃コーチは「球を離すところから、しっかり見ろ。浮けば変化球とか球種もある程度分かってくる」と説明した。

 江越は打席のなかで、胸に刻む言葉がある。「真っすぐには差されるな!」。1軍投手に苦しむ姿を見た首脳陣から掛けられた助言だ。変化球を多投され、ワンバウンドの球を振り、何度も三振。和田監督も「三振はいくらでもしてくれたらいい」と気遣うが、甘えない。自らの存在を示すために譲れないポリシーがある。チームは再び首位タイへ。強く振ることで認められてきた男が、振らないことで進化を示した。レギュラーを引き寄せつつある若武者が、頂点への先導役になる。【酒井俊作】

 ▼阪神がナゴヤドームで1イニング6点奪取。97年開場のナゴヤドームでは、1イニング7点が最多(08年5月5日、1回に打者10人6安打1四球)。6点は13年8月25日(2回に打者10人6安打1四球)以来となった。ほかに09年9月27日の5回(打者10人5安打=1本塁打含む=2四球)、07年4月18日の1回(打者12人7安打2四球)、00年7月12日の9回(打者10人6安打2四球)がある。6点以上は6度目。00年だけが敗れている。