球団初、史上2位の年少スピードで「トリプルスリー」に到達した。ヤクルト山田哲人内野手(23)が広島21回戦(神宮)で今季30個目の盗塁を決めた。4点リードの6回2死走者なしから中前打で出塁し二盗成功。目標の「打率3割、30本塁打、30盗塁」の条件を満たした。打席でも3安打猛打賞で勝利に貢献。残り試合数から今後も打率3割を切ることは考えにくく、史上9人目の偉業に事実上の「当確」をともした。

 「走れ」コールが球場内にこだました。6回2死一塁。一塁走者の山田は、「聞こえていました」と集中力を研ぎ澄ました。いつものように右手を膝につけ、大胆なリード。広島ヒースのけん制にも、落ち着いて帰塁した。再び、大きくリード。「走れ」コールのボルテージはさらに上がり、1ストライクからの2球目に、駆けだした。二遊間はベースカバーに入っておらず、無人のベースに今季30個目の盗塁を刻んだ。

 目標をやり遂げた。今春キャンプから、三木肇作戦兼内野守備走塁コーチ(38)と約束をした。スタートからスライディングまでを分けた6項目をチェックしながら、走塁特訓に着手した。

 三木コーチ 中途半端は誰でもできる。超一流の盗塁を目指していこう。打撃だけでなく、走塁もレベルアップすれば、さらに上のレベルの選手になれる。

 山田も同じ気持ちだった。「打てるだけでは、怖い選手ではない。打って、守れて、走れる選手が本物」と、「トリプルスリー」を強く意識。三木コーチの下で、細分化された課題に取り組んだ。

 <1>状況(投手の利き腕、カウント)<2>帰塁(タイミング)<3>リード(通常は大股4歩)<4>走路(直線のようで、やや外回り)<5>ベースに入る角度(手前の左隅)<6>スライディング(右足から入る)、の6項目だ。

 山田にとって全てが新鮮だった。昨季まで「帰塁することが、疲れるんですよね」と話していたが、「走塁って奥が深い。単純ではない」と引き込まれた。理想のモデルは、あえて設定しなかった。山田は「誰かの走りを参考にしたことはないですし、世界陸上も見てない」。同コーチは「哲人に合う形で走れることが一番」と二人三脚で、最適な走塁を築きあげた。

 その結果、盗塁は昨季の15個から倍増した。失敗は4個だけと、質も向上した。敵将で、3年連続で盗塁王に輝いた広島緒方監督は以前に「いい足してるな。(今年で)一気に開花した」と目を細めたことがある。2位以下を引き離し、史上初の本塁打と盗塁の同時タイトルが現実味を帯びてきた。それでも山田は「これからも走れる時に走って、次の塁を狙いたい」と貪欲。試合後のお立ち台では、「打って、守って、走り続けます」と宣言した。小雨混じりの神宮球場が、この日一番の「山田」コールに包まれた。【栗田尚樹】

 ソフトバンク柳田のコメント (山田のトリプルスリー当確を知り謙遜気味に)「あいつはやばいっす。天才やな。えぐい。すべてがすごいっすね。レベルが違う。(山田に続くなんて)恐れ多いですわ」

 ◆山田の打率は? 現在、山田は487打数162安打の打率3割3分3厘。すでにシーズンの最終規定打席をクリアしており、残り19試合を欠場してもトリプルスリーが決定。仮に1試合4打数とすると、残り19試合を76打数7安打、打率9分2厘で最終成績が563打数169安打の打率3割となりトリプルスリーを達成する。

 ▼盗塁数が昨年の15個から倍増。盗塁失敗は4度しかなく、盗塁成功率が8割8分2厘。過去に30本塁打・30盗塁を達成した選手と比べると、83年簑田(阪急)の8割9分7厘に次ぐ高い成功率を記録している。山田は9月4試合で4盗塁し、8月には9試合で7本塁打の固め打ちを見せた。残り19試合で、史上初の40本塁打・40盗塁の記録も期待したくなる。

 ▼大リーグで歴史的偉業とたたえられるのが同一シーズンでの40本塁打と40盗塁の達成で「40・40クラブ」と呼ばれる。過去、J・カンセコ(88年アスレチックス)、Ba・ボンズ(96年ジャイアンツ)、A・ロドリゲス(98年マリナーズ)、A・ソリアーノ(06年ナショナルズ)の4人が記録。