巨人が、阿部慎之助内野手(36)の先制犠飛を含む2打点の活躍で、クライマックス・シリーズ(CS)ファーストステージを突破した。今季限りで退任する可能性が十分にある原辰徳監督(57)にとって、監督生活12年の集大成となる短期決戦。百戦錬磨の男でも、打席で足が震える中、勝負どころで強さを発揮した。14日からヤクルトとのファイナルステージに臨み、日本シリーズ進出をかける。

 いつもと違う、何かが阿部の体を駆け抜けた。1点リードの6回1死一、三塁。打席に立った瞬間、ブルブルッと感じた。「久しぶりに」足が震えた。高まる緊張感、気合も、当然あるが、何よりも野球人の本能がそうさせた。

 阿部 しびれる試合はなかなかできないですから。いい意味で楽しんで、いい意味で緊張して。いい緊張感があったからこそ、そういうものが出せた。

 カウント2-2からの6球目だった。「食らいついた」。岩田の低めスライダーに、体勢は崩されても、執念だけでバットを合わせた。打球が一、二塁間を抜けると、総立ちの右翼席のファンが目に映った。阿部は感情を爆発させながら、両手を強くたたき、一塁ベースに走った。価値ある適時打で流れを再び引き寄せ、暴投による坂本の本塁ダイビング生還につなげた。

 突破口を開いたのも、阿部だった。1回1死一、三塁、2-1からのスライダーを中堅に打ち上げた。「最低でも犠牲フライと思って。能見が良かったので、何とか早いカウントで」。原監督を「見事です」とうならせた、難度の高い放物線で先制点を導いた。

 ドンと構える姿と、時にのぞかせる心優しさでチームを引っ張る。この日のお立ち台。突然「この場をお借りして…」と切り出すと、この試合限りで引退する阪神関本に心からの言葉を贈った。

 阿部 思い出がたくさんある選手。すごく寂しいです。本当に19年間、お疲れさまでした。

 スタンドが歓喜に沸く中、しんみりした雰囲気を察したのだろうか。ジーンとくる言葉の後には「昔、大道さん(現ソフトバンク打撃コーチ)に『バットは短く、息は長く』という名言をいただいた。大事な場面でできた」とニヤリ。得点機で見せたバットを短く持つ打法の真相に“オチ”もつけた。

 試合後には右翼スタンド前に原監督ら首脳陣、全選手が直接足を運び、ファンに感謝と日本シリーズ進出を誓った。原監督にとって、集大成となる短期決戦の第1関門を突破。「しびれる中でやるのが勝負。心地いいという言葉は使えないゲームでした」と激戦を総括し、「自分たちで勝ち抜いて」と次なる舞台に力を込めた。「まだ野球ができる喜びを感じて。(東京ドームでは)日本シリーズしかないので、必ず戻ってきます」。阿部の言葉が、全てのナインの思いを示した。【久保賢吾】

 ▼阿部が先制犠飛を含む2打点。CSで阿部の勝利打点は、09年2S第2戦(左本)10年ファイナルS第3戦(右本)11年1S第2戦(右本)に次いで4度目。プレーオフ、CSの勝利打点は和田(中日)の5度が最多で、阿部の4度は森野(中日)と並び2位。和田は西武時代に2度記録しており、セ・リーグで4度は森野と並び最も多い。阿部のCS通算成績は打率2割2分8厘、11打点だが、打点を挙げた場面は同点5点、1点差5点、4点差1点と、11打点のうち10打点が1点差以内。先制打3本(犠飛含む)同点打1本、勝ち越し打2本と、打率は低くても貴重な一打が多い。