中日岩瀬仁紀投手(41)が1年5カ月ぶりの実戦登板を果たした。「名球会ベースボールフェスティバル2016」が11日、福岡ヤフオクドームで行われた。岩瀬はセ・パ対抗戦で全セの6番手で登板。力を入れて1回21球を投げ、130キロも3度マークした。バッテリーを組んだ谷繁元信監督(45)だけでなく、巨人長嶋茂雄終身名誉監督(79)、ソフトバンク王貞治球団会長(75)ら球史に名を刻んだレジェンドが、鉄腕復活への大きな1歩を見届けた。

 百戦錬磨の402セーブ左腕が緊張の表情で投球練習をした。無理もない。岩瀬が試合形式で投げるのは左肘痛を発症した14年8月6日の広島戦以来だった。

 「まず投げられたことがよかった。ここで無理をして今までが無になっても仕方ない。でも結構力を入れて投げました。130キロ出れば十分でしょう。実戦感覚さながらにいいシミュレーションができました」

 稲葉氏、清原氏と単打2本を浴びたが収穫ばかりを強調。130キロは3球。21球のうち宝刀スライダーも1回試した。中日小笠原2軍監督を129キロで力強く空振り三振。さらに現役の楽天松井稼はこれも直球で右飛にしとめ、小久保氏は二ゴロに打ち取った。

 実はスパイクをはいておらず、踏ん張れない中の投球だった。イベント特有の空気もあり、久々のマウンドは難しい状況だったが、岩瀬にとっては大事な舞台だった。「こういった形だけど大きな1歩になった。(監督にも)岩瀬は投げられると感じてもらえたのでは」とホッと一息だ。

 昨春に痛みを再発させてから状態が上がらず、先の見えない日々を送った。球の勢いが戻り始めたのは秋口。山本昌らベテラン勢が次々引退する中、岩瀬も覚悟した。わずかな手応えにかけ、2億5000万円減の大減俸をのんで年俸5000万円で契約。「春にしっかり投げられなければ」と自ら期限を区切って退路を断った。復活投球は崖っぷちからの生還を意味するものでもあった。

 「岩瀬らしい球が来ていた。楽しそうだったね。投げ方もスムーズだし、力を入れた球は岩瀬らしく動いていた。このまま焦らずじっくりやっていけば投げられると思う」。受けた谷繁監督も復活に太鼓判だ。

 登板後の違和感もなし。今日12日には鳥取に移動して自主トレを再開する。通常あり得ない時期に実戦を経験できたことで、はずみがつくのは間違いない。レジェンドたちが集った晴れの場で見せた「岩瀬の21球」は、巻き返しを期す中日の勇気にもなる。【柏原誠】