ベテランが1発で連敗を止めた。ロッテ井口資仁内野手(41)は1点を追う3回2死一、二塁。外角低めに落ちるフォークを引っ掛け、左手1本で左翼スタンドへ運んだ。「うまく拾えたね。ヘッドを利かせて打てたのでよく飛んだ」。逆転の決勝3ラン。思わず右拳を突き上げて一塁を回った。ガッツポーズは、テレビ解説で訪れた元同僚の渡辺俊介氏が「日本シリーズ以外で見たことない」と言うほど珍しい光景だった。

 今季初スタメンでの1号だ。前日まで一塁を守った井上が2試合連続無安打。変化球が多い西武バンヘッケンとの相性も考え、伊東監督は決めた。「正直、球の速い選手には多少差し込まれる年齢。でも低めを打つ技術がある」。

 朝、起用を告げられた井口は考えていた。「連敗中の初スタメン。何か意味があると思った。連敗を止める一打を打つためだと」。2打席で直球は1球のみ。1打席目で空振り三振した「ナックルみたいに動く」フォークを、いぶし銀の技術ですくった。連続本塁打記録はプロ入りから日米通算20年連続に伸びた。

 球界野手最年長。若手の台頭を喜んでいる。同時に、立場もわきまえている。「若い選手が出てくるのはいいこと。そのたびに自分のポジションも変わる。それでも勝つための準備をしっかりやる」。フリー打撃はいつも全力のマン振り。体にキレを出すためだ。控えでも、出番のくるシチュエーションを想定してベンチ裏で振る。だから「実戦感覚がないというのはない」。そう言い切れる。

 2ストライクから、ひと振りで試合をひっくり返せる粘り強さと勝負強さ。今季初めてスタンドに駆け付けた長女琳王さんの前で、抜群の存在感を見せつけた。伊東監督は「あらためて必要な選手だと思った」と称賛。チームは2位に浮上し、明日12日から楽天との首位攻防戦に臨む。「個人で意識する数字はない。優勝したい。それだけです」。勝利へ導く仕事人。41歳井口、ここにあり、だ。【鎌田良美】

 ◆今季最年長野手 井口は42歳を迎えるシーズンになり、野手では12球団最年長。同じ74年生まれの野手には既に引退した阪神今岡コーチ、DeNAラミレス監督、坪井コーチらがおり、1歳下の井端、高橋由(ともに巨人)は昨季限りで引退した。満42歳以上のシーズンで本塁打を放ったロッテの選手は50年に42歳の若林忠志(投手)が2本、78年に43歳の野村克也が3本打ったのに次いで38年ぶり3人目。