ようやく初勝利だ。ヤクルトのドラフト1位、原樹理投手(22)が、巨人打線を相手に6回2失点と粘りの投球を披露。打っても2回に逆転の2点適時二塁打を放つ活躍で、プロ初勝利を飾った。込み上げたのは父への感謝の気持ちだった。

 失敗は自分のバットで取り返した。2回2死一、三塁、2球で追い込まれながらも原樹は集中していた。巨人高木の外角高めカットボールを強振。左中間を割る2点適時二塁打にした。「初回に点を取られていたので、なんとかしたかった。打てたのは伊藤コーチのおかげです」。現役時代、高速スライダーで鳴らしたコーチのスライダーでバント練習をしていた。その残像が生きた。貴重なプロ初安打につながった。

 勝ちたかった。父敏行さん(82)への感謝の思いがある。思い返すのは、小学生時代だ。ある日、学校から家に帰ると、いるはずのない父がいた。大学でロシア声楽の講義を行っている時間のはずだった。「お前のために授業をずらしてきた」と言われた。驚く間もなく練習が始まった。ボタンを押して数をカウントする数取器で素振りをチェック。「適当にやるとカチカチって音が鳴らないんですよ」。ちゃんと振った分しか数えてくれなかった。あの練習で染みついたスイングが、この日の打席で出せた。

 友達と遊んでいても、父との練習は突然始まった。厳しい指導だったが、年配で、野球経験がないのにもかかわらず、付き合ってくれるのがうれしかった。野球で恩返しがしたい。その一心でプロの扉をたたいた。「父さんも80歳を超えている。何があるか分からない。だから早く自分が頑張っている姿、昔よりも少しは成長している姿を見せたくて。本当は今もキャッチボールしたいですけど。体が心配なので」。だからこそ、初勝利を早く見せたかった。

 初めてのお立ち台はフワフワした気持ちだった。「石川さんも言ってましたが、ツバメのゴールデンウイークは始まったばかりです」と粋なひと言で締めた。お尻のポケットには、感謝を込めて両親に渡すウイニングボールが忍ばせてあった。【竹内智信】

 ▼原樹が6試合目でプロ初勝利を挙げた。2回にはプロ初安打となる逆転の2点二塁打を放ち、これが決勝打。自らV打を放ってプロ初勝利は15年4月11日田口(巨人)以来で、ヤクルトでは10年7月8日加藤以来、6年ぶり。ドラフト制後はチーム5人目となったが、最近の02年花田、10年加藤はともに3年目。自らのV打で初勝利を挙げたヤクルトの新人は93年伊藤以来、23年ぶりだった。