中日吉見一起投手(31)が5回1失点で、昨年5月9日以来約1年ぶりの勝ち星を挙げた。今季5度目の先発でつかんだ初勝利。「75勝していますが、一番うれしい白星かな。大げさに言うと、奇跡かなと思う」。涙はなく、ホッとしたような笑顔だった。

 初回無死二、三塁の大ピンチ。「また今日もか…」。一瞬、折れかけた心を奮い立たせた。「自分で切り開くしかない。自分で後始末をしないと」と中軸を3人斬り。3回は1点失ったが、その後の1死二、三塁を抑えた。5回で8安打を浴びながら1失点にまとめた。

 5年連続2桁勝利を達成した男が「一番」と言った。勝ちを知るから、今季4試合も投げて勝てない自分が許せなかった。「まさかこんなに勝てないとは思ってなかった」。初の中6日登板で結果を出した。昨年、肘のトミー・ジョン手術を乗り越え708日ぶりの白星を挙げたが、それ以上の感慨があった。

 昨年10月、肘の再手術を受けた。痛みの原因となる、癒着した神経をはがす軽い術式。だが今でも手首にしびれが出る。シーズン中も週に3度の通院でマッサージ。過去、野球選手にない症例といい、見えない不安とも闘い続けていた。

 前回から、肘への負担が大きい従来のフォームに戻した。セットポジションで反動をつけて投げている。「楽に投げていたら打者も楽だぞ、と森ヘッドに言われていた。勝ちたかったから」。今後、痛みがぶり返すかもしれないが覚悟は決めた。お立ち台を終えると、客席にサインボールの“剛速球”を次々と投げ込んだ。痛みの再発とばかり闘っていた自分との、決別を示すようなシーンだった。【柏原誠】