鷹の尻尾を離さない。1日天下で首位から陥落した日本ハムが、西武を逆転で下し、首位奪還へ再スタートを切った。前日は体調不良で欠場した大谷翔平投手(22)が9回、代打で登場し20号ソロを放った。病み上がりの中、追加点がほしい場面で値千金の1点をたたき出した。前日から引きずっていた暗いムードを吹き飛ばす1勝。首位ソフトバンクも勝ったため順位の変動はなかったが、マッチレースのV争いでピタリ追走する。

 揺れるチームを、救った。病み上がりの大谷が、驚きの一撃を食らわせた。1点リードの9回1死。代打で登場し、カウント2-0。最初のスイングで内角のボール気味、直球142キロを振り抜いた。打球は強烈な衝撃音を残し、バックスクリーンに吸い込まれた。大台到達の20号ソロ。右拳を高く突き上げ、全身で歓声を浴びながらダイヤモンドを駆けた。1点リードの安全圏ではない場面。破壊力満点の1発で、逆転勝利を仕上げた。

 大谷 (試合に)出られない分、しっかり1打席と言われていたので、そこでしっかり結果が出せるようにと思っていました。

 不安と葛藤でいっぱいだった。25日頃から抱えていたのどの痛みや頭痛は、限界に達していた。前夜26日の西武戦は3番DHでスタメン出場が決まっていたが、最終のオーダー交換で緊急欠場が決定。風邪の症状のため試合開始前に宿舎へ戻り、東京・立川市内の病院で点滴を受けた。中軸を担う大谷の欠場も響き、試合は大敗。1日で首位の座から陥落した。インターネットで結果を知り、決意した。「昨日休ませてもらったので、その分取り返したい」。

 一振りで不安を吹き消した。一夜明けたこの日は、試合前の全体練習に参加。通常通りキャッチボールなどの投手メニューとフリー打撃をこなした。大事を取り、代打待機で出番に備えた。3点ビハインドの5回。レアードの逆転満塁弾で流れが傾くと、栗山監督は「ベンチでふざけている姿を見て、出せると思った」と、左腕武隈相手に代打投入のタイミングを確信した。大谷も「追い込まれるまで長打を狙う」と役目をシンプルに捉え、全うした。

 デーゲームで首位ソフトバンクが一足先に勝利を決め、追走する形で逆転勝ち。マイナス0・5ゲーム差を死守した。大谷は「(体調不良は)予想外でしたけど、ここから取り返せるように」と、さらなる奮起を宣言。危機的状況を1日で乗り越えて、歓喜のフィナーレを追い求めていく。【田中彩友美】

 ▼9回に代打で出場した大谷が今季20号。大谷の代打本塁打は昨年8月13日西武戦以来4本目になる。投手として大谷は今季8勝。同一シーズンに「20本塁打+勝利」は、23本塁打で1勝の51年藤村富(阪神)以来、65年ぶり2人目だ。現在、大谷は292打席で、シーズン最終規定打席の443をクリアするのは難しい。日本ハムで規定打席未満の20本以上は95年ブリトー21本、99年オバンドー20本、05年新庄20本に次いで4人目。規定打席未満の最多本塁打は88年ブライアント(近鉄)03年ペタジーニ(巨人)の34本で、日本人選手では83年田淵(西武)の30本。大谷はあと何本上乗せできるか。

 ◆大リーグでは 二刀流選手のシーズン20発は、1919年にベーブ・ルース(レッドソックス)が達成した。当時のメジャー新記録となる29本塁打を放ち、打点とあわせて2冠王に輝いた。投手としても17試合(15先発)に登板し9勝(5敗)を挙げた。ルースの二刀流挑戦はこの年が最後となり、オフにヤンキースに移籍した。