新人王候補の日本ハム高梨裕稔投手(25)が粘投で8勝目を挙げた。西武を相手に序盤3回までに4失点と精彩を欠いて苦しんだが、粘りの投球が5回のレアードの逆転満塁本塁打を呼び込んだ。プロ入り自己ワーストタイの4四球で6回途中で降板したが、対西武の今季勝ち越しを決めた。先発では「負けない男」が、プロ最多120球でチームに再反撃の息吹を送り込んだ。

 優しく肩をたたかれ、そっと抱かれた。高梨の硬直していた表情が、やっと崩れた。温かいねぎらいの主は、栗山監督。ハイタッチの列に並ぶと、近寄ってきてくれた。「大事な1勝。次回は中継ぎの方に迷惑を掛けないようにしたい」。肩身の狭い思いをしながら見届けたが、痛快な逆転劇のヒーローの1人だ。指揮官も「高梨に勝ちを付けてあげられて、良かった」と一息ついた。

 不敗神話を苦しみながらも、つむいだ。初体験の力投で8勝目を手に入れた。序盤3回までに4失点。ストライク先行の小気味いい投球スタイルが特長だが、立ち上がりから制球に苦しんだ。「気持ちだけは入れていった」。持ち直した5回に、レアードが決勝の逆転グランドスラム。5回1/3をプロ入り3年目でワーストタイ4四球も、最多120球を要して投げ切った。

 超新星の勢いは、止まらない。6月に先発に配置転換されて登板10戦無敗。中継ぎでの1勝も含め、破竹の自身7連勝を飾った。プロ初勝利を挙げた今季、新人王候補として突き進む。この日の試合前、立川市内のチーム宿舎で行われたスカウト会議。栗山監督も出席した終了後の会食の席で、球界では無名の千葉・土気高-山梨学院大出身の高梨の話題になったという。

 発掘した1人の当時GMで、山田スカウト顧問が最終決断して指名した。直球の力と軌道、フォークのほか、人間性を評価していた。「おもしろい選手。練習も、生活も地道にできる」。昨季までの2年間、ほぼ2軍で丹念に地力を蓄えた。失わない謙虚さと、向上心。執念を注入するマウンドさばきの根源だ。開花した今季は原石から、奇跡を呼び込みそうなパワーストーンへ変身を遂げた。新たに生まれた白星の使者が、逆転Vロードの道しるべになる。【高山通史】