打者大谷が劇的に決めた。「SMBC 日本シリーズ2016」第3戦、日本ハム大谷翔平投手(22)が、同点で迎えた延長10回、2死二塁から右前へサヨナラ適時打を放った。敵地で2連敗しての一戦は、第1戦先発登板、第2戦の代打に続いて、「3番DH」でスタメン出場。今季限りで引退する広島の先発黒田博樹投手(41)からも、2安打を放った。チームも今シリーズ初白星。投打フル稼働で最後まで戦い抜く。

 スターの系譜を継いだ。“特別な夜”を、自らのバットで決着させた。延長10回2死二塁。広島大瀬良の内角膝元の直球を、大谷が右前へはじき返した。日本シリーズ初打点は、逆転日本一へ追い風を吹かせるサヨナラ打。「サヨナラで決めて、明日、あさってにつなげたいと思った。僕のふがいない投球で負けてしまった。取られた分の倍くらい取り返したいと思って打席に立っています」。敗戦投手となった初戦の悔しさをバットに込めた。

 視線の先に、あこがれの人がいた。花巻東で野球に打ち込んだ高校時代。持ち歩いていたファイルには、アマ球界から直接メジャーに挑戦した田沢の写真を貼った。「いつか、この舞台へ」。横に記した。当時からあこがれたメジャーリーグ。その象徴が、ドジャースとヤンキースで活躍する黒田だった。「黒田さんが投げていると聞けば、チャンネルを回したくなった」。球界の歴史を次々に塗り替える若きスターの、ヒーローは黒田だった。

 先制点へとつながった1回1死一塁での初対戦は、初球を打って左翼線への二塁打。先頭の4回は、甘く入ったカットボールを右中間に運んだ。3打席の対戦は、全8球。ツーシーム、カットボール、スライダー、さまざまな球種を、打席の中で体感することができた。「間合いやボールの軌道、勉強になった」。これから球界を背負って立つ大谷にとって、濃密な時間を過ごすことが出来た。

 6回、左飛に打ち取られた直後に、黒田はアクシデントでマウンドを降りた。栗山監督は、ベンチで胸を熱くしていた。「翔平の前くらいから、クロの足がおかしい感じがあった。我慢して投げたんだろう。メッセージを送ってくれたような気がする」。2打席目まで投じていなかったフォークで勝負してきたところに、意図を感じる。大谷も「(黒田の状態が)万全で勝負できたかはわからない。でもすごく楽しく、打席でパフォーマンスが発揮できたのではないかと思う」と振り返った。

 投打でフル回転しながら、前日24日の移動日も、合宿所でウエートトレを休まなかった。「2球団しかここ(日本シリーズ)に来られない。緊張ばかりしていても、もったいない」と話した。シリーズの流れを変える一打となるか。「広島に行く前に逆転して、3勝2敗で行けるように」と強い思いを口にした。【本間翼】

 ▼3番DHで出場した大谷がサヨナラ安打を含む3安打。シリーズでサヨナラ安打を含む猛打賞は74年第1戦高木守(中日=3安打目がサヨナラ二塁打)94年第4戦佐々木(西武=3安打目がサヨナラ単打)に次いで史上3人目だ。大谷は第1戦で投手として先発。同一シリーズで投手と野手の両方で先発は54年大島(中日=第3戦9番投手、第5戦5番右翼、第6戦5番左翼)以来2人目。同一シリーズで「投手で登板とサヨナラ安打」は6試合に登板の58年稲尾(西鉄)が第5戦でサヨナラ本塁打、4試合に登板の86年工藤(西武)が第5戦でサヨナラ単打に次いで3人目となり、「投手で登板と猛打賞」は史上初めて。