5日午前9時。「新年仕事始め」の西武第2球場に、誰よりも早く現れたのは、西武秋山翔吾外野手(28)だった。

 外野フェンスに取り付けられた入場扉は、昨年末に閉じられたまま、開いていなかった。「新年の扉を開けますか」。同行した田代に向かってうなずくと、力を込めて一気に両手で開け、無人のグラウンドに駆けだした。

 新年の自主トレ初日から、精力的に身体を動かした。外野フェンスに沿って、約200メートルのスプリント走を14本繰り返した。その後は室内練習場でもティー打撃、マシン打撃とバットを振り込んだ。

 侍ジャパンの1次メンバーに選ばれ、3月7日開幕のWBCに出場することが決まっている。他の代表メンバーの「ハイペース調整」という記事も見かけるが、秋山は「自主トレの方針はいつも通りです。2月1日のチームのキャンプに向け、きちんと準備をするだけ」と首を振る。

 ペースを変えるとすれば、春季キャンプに入ってから。リーグよりも3週間早いWBCの開幕を見据え「おそらく一番難しいのは、打撃面の実戦感覚を取り戻すこと」と表情を引き締める。実戦感覚は、実戦や実戦に近い練習でしか得られない。「シート打撃なども、キャンプ序盤からしっかり打ちにいく意識でやらないと。その部分はハイペースになるかもしれません」とうなずく。

 主力級なら、キャンプ序盤は投球に目を慣らすだけという調整が一般的。秋山も例年はそうだが「入団したてのころの気持ちでやればいいだけなのかな、と思います。未経験のペースじゃない」と言い切る。

 「シート打撃で内容が悪ければ2軍キャンプ行きだ、と言われながらやっていた。緊張感を持って、結果にこだわっていた。今回もそういう感じでやればいいんじゃないか、というイメージは持っています」

 必要なのは特別なメニューではなく、特別な意識。秋山はそうとらえている。世界の舞台での活躍は、08年以来のリーグV、そして日本一を目指す西武での戦いにも必ずつながると心得る。新年の練習場に誰よりも早く現れ、足跡1つないグラウンドに踏み出した第1歩も、そうした意識の現れかもしれない。