強打の1番打者が、母親に特別な1本を届けた。1点リードの5回無死満塁。楽天茂木栄五郎内野手(23)はカウント2-2からの6球目、甘く入った高めスライダーを振り切った。「先輩たちが最高の場面で回してくれた。追い込まれていたので、何とか自分のスイングをすることを考えて。それが最高の結果になった」と、母の日に人生初のグランドスラムをたたき込んだ。

 同時刻の都内。母美恵子さん(58)は自宅で、草むしりをしていた。「ドキドキするので、テレビは見られないんです」と背を向けていた。「何とか打ってほしいと心の中で、気は送っていました」。親子だから伝わる“エネルギー”が東京から1000キロ以上離れたヤフオクドームに届く。茂木の左翼方向への大飛球はテラス席のフェンスに当たり、ギリギリで着弾。「誕生日や母の日にプレゼントをもらったことはなかったですし、ホームランを打ったことがなかったので、うれしいですね」と息子からの初めての贈り物を喜んだ。

 茂木にとって、そんな母が心の支えだった。早大2年秋に、不整脈の手術を受けた。術前の検査時。医師から「手術をしても心臓に影響が出るかもしれない。もしかしたら、野球が続けられないかもしれない」と言われた。当時19歳。不安に押しつぶされそうになっていたが、毎日仕事終わりに見舞いに通ってくれた母の存在に励まされた。「ありがたかった」。決して弱音を吐かず、プロの世界にたどり着いた。

 試合開始前、午前中に母から「おはよう」とメッセージを受け、「今日、頑張ります」と返信。言葉以上の結果を生んだ。出場30試合目で8本目と勢いは止まらない。梨田監督も「落ち着きが出ている」と評価する2年目。ヒーローインタビューで「恥ずかしいですけど、いつもありがとうございます」と顔を赤くしながら、母への感謝の思いを口にした。【栗田尚樹】