野球場からボールが消える、前代未聞のシーンがあった。

 広島田中広輔内野手(27)が1回に左翼へ放ったライナー性の打球を、阪神の左翼を守る福留孝介外野手(40)がジャンプして捕球しようとした瞬間だ。打球は福留が差し出したグラブをかすめるように、左翼フェンスに空いた切れ跡の穴にすっぽりと入ってしまった。橘高三塁塁審も本塁打のジャッジで手を回し、田中も1度は本塁まで戻ってきた。リプレー検証の結果、二塁打として試合が再開された。

 田中は試合後「松山さんが練習中にフェンスにのぼった時に空けた穴だって言っていました。本塁打では絶対にないと思ったけど、よく伸びてくれました」と冗談めかして言った。ラバーフェンスは毎年張り替えられるが、柔らかい素材で傷がつきやすい。広島の選手以外でもフェンスにのぼる練習は頻繁に行われている。松山がつけた傷かは定かではないが、ボールがすっぽり吸い込まれた形となった。

 審判団も打球を確認しきれず、ひとまず本塁打の判定を下して、リプレー検証に入ろうという判断だったという。責任審判の橘高審判員は「福留選手が捕球したと思ったら、ボールもなかった。ボールを探したけどなかった。まさかラバーをぶち破るとは思っていなかったが、短時間で頭を整理して、確認する意味でも一度回そう(本塁打のジャッジをしよう)と。すぐにリプレーするつもりだった。福留選手とかぶって、接点が隠れていた。ボールがラバーを抜けるというのは初めて」と驚きの表情だった。