<オープン戦:ソフトバンク7-3巨人>◇8日◇福岡ヤフードーム

 8年前の悪夢を思い出しながら、ソフトバンク小久保裕紀内野手(39)が本塁へ突入した。2回裏。左前安打で出塁。次打者多村の左越え二塁打で、一塁から激走した。違うのは、ホームベースに左手でタッチしたこと。脳裏には、03年の同じようなシチュエーションが描かれていた。

 「よぎったなあ。03年3月6日。無事に帰ってこれてよかったよ」。

 悪夢は同じく本拠でのオープン戦の西武戦、一塁走者として本塁突入したときに起きた。右足でホームを狙い、右膝靱帯(じんたい)などを断裂。1年間を棒に振った。それでも、この日も迷うことなく、三塁ベースを回った。勝負にかける集中力は、恐怖心を乗り越えていた。

 一瞬に生きるスラッガーは、バットでも過去17年と違うスタイルで築いている。3打席目に右中間フェンス直撃二塁打を放ち、この日3打数2安打。その3打席すべてでファーストストライクを打ちに出た。ここまで計20打席で、1ストライク目をスイングしたのは11打席。積極打法が、20打数8安打の好調に結びついている。

 「見逃す理由がないときは打ちにいっている。これまで初球にしょうもないスイングしたら後悔していたけど、後悔せんと決めたからね」。

 澄み切った心境は、まるであの日の空のようだ。2月28日。熊本・幣立神宮に愛車を走らせた。毎年シーズン前に、縁起のいいとされる方角に向かっている。当日は雨。片道2時間半の道中ではフロントガラスに雨がぶつかっていたが、参拝時だけ不思議と雨が上がった。

 グラウンドでも思いは澄んでいる。通算400本塁打、2000安打のかかったシーズンで、目指すのは日本一。主将小久保が全身でチームをけん引する。