<中日5-4広島>◇30日◇ナゴヤドーム

 天国に届け-。東日本大震災で祖父を亡くした中日小山桂司捕手(30)が今季初打席で本塁打を放った。2回、広島先発今村から今季最初のスイングで1号3ラン。野球好きだった祖父にささげると誓ったシーズンは特別な力を感じさせる船出となった。「おじいちゃんが打たせてくれたと思う」。試合後はお立ち台で目を潤ませた。小山の活躍もあり、チームは競り勝って借金1で4月を終えた。

 迷いはなかった。2回1死一、二塁でめぐってきた今季初打席、小山は初球を思い切り振った。広島今村の直球をとらえた。左翼線に飛んだ打球を見ながら祈った。「頼む、切れないでくれ」-。すると白球は見えない力に導かれるようにフェアゾーンに戻って、左翼ポール際、スタンド前列に飛び込んだ。

 「1打席目の初球は振ろうと決めていた。(打球が)切れたなと思ったけど戻ってきた。涙が出そうになりました。おじいちゃん、ありがとうと思ってベースをまわっていました」。

 開幕から14試合目、正捕手谷繁の休養でまわってきた今季初スタメン。その最初のスイングで1号3ラン。試合後のお立ち台、小山は天国に思いをはせると目を潤ませた。

 日本史上最大級の悲劇となった東日本大震災。小山は“被災者”となった。宮城県・石巻在住の祖父・高司さん(享年87)が亡くなったのだ。震災直後、小山は開幕1軍争いの渦中にいたが、チームの許可を得て行方不明の祖父を捜索に出かけた。だが、名古屋から東京についても被災地への移動手段がない。車を使う手はあったが、何日かかるかわからない。「おじいちゃんは僕が野球をしているところが好きだったから…」。小山は心で泣き、名古屋へ引き返す決断をした。そして、その4日後、祖父は遺体で発見された。

 今季初スタメンのこの日、名古屋市内の自宅を出発する前、この世にはいない祖父に声をかけた。「おじいちゃん、行ってくるね」。「桂司」という名は祖父が自らの一文字をくれた。野球が大好きだったが球場にはめったに顔を出さず陰から応援する人だった。1度だけ、09年の楽天との交流戦を観戦に来た時は濃霧によって小山の出番前に打ち切りとなってしまった。

 3月28日、火葬され、遺灰となった祖父への心残りが1つある。「悔いがあるとすれば、僕が活躍するところを生で見せられなかったことです」。祖父にささげた本塁打は天国へ届いたのだろうか。【鈴木忠平】