<セCSファイナルステージ:中日1-3ヤクルト>◇第2戦◇3日◇ナゴヤドーム

 伏兵の1発でヤクルトがクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ初勝利を挙げた。8回2死から代打飯原誉士(やすし)外野手(28)が、均衡を破る先制のソロ本塁打を放った。小川監督は不振の4番畠山を先発から外し、4番に青木、1番に新人の山田を起用するなど打線改造。負ければ後がなくなる一戦を総力戦でもぎ取った。1勝のアドバンテージがある中日の優位は変わらないが、大きな1勝をもぎ取った。さあ、反撃開始だ!

 歓喜に沸く三塁側ベンチを見つめ、飯原がようやく笑みをこぼした。両軍無得点の8回2死。中3日で強行先発した石川の代打に立った。「石川さんが頑張っていたので、何とかしたかった」と集中。2ボール2ストライクからの5球目。低めに沈むフォークをすくい上げると、打球は左翼席最前列に飛び込んだ。苦労を知るチームメートが、笑顔で待っていた。

 苦しんだ1年も、こんな1発があれば忘れられる。昨季は自己最多の15本塁打を放ち、飛躍を期したシーズン。統一球の影響もあり、開幕から全く調子が上がらなかった。打率1割2分6厘。本塁打は0で、2軍落ちを4度経験した。「ふがいないシーズンだったけど、監督が呼んでくれてCSで使ってくれた。開き直っていこうと思った」と声を詰まらせた。

 対中日7試合ぶりの先制点で、チームに勝利を呼び込んだ。期待をかけ続けた小川監督は「最後の最後で、大仕事をしてくれた」と言った。CS直前は宮崎フェニックスリーグに参加。若手に交じり、夜間練習でバットを振り続けた。ストレスからか、原因不明の体重減で、ベスト体重89キロから7キロ減った。試合前には「ご飯も食べているし、なぜだか分からない」と悩みは深かった。

 苦労人の1発が、崖っぷちのチームを救った。ナゴヤドーム6連敗を喫した前日から、打順をすべて変更した。1番に新人の山田を抜てき。4番畠山をスタメンから外して、青木を今季初めて据えた。朝の散歩中に決断した小川監督は「狙いも何もない。どうにかして、『線』となってつながってくれれば」と願いを込めた。敗れれば中日に王手がかかる一戦で、勝負に出た結果だった。

 9回は4番青木が内野安打でつないだ2死二、三塁のチャンスで、途中出場の畠山が中前に2点適時打を放った。伏兵が打ち、主砲が目覚めて勝利を挙げた。ナゴヤドームの呪縛を振り払い、粘り勝つ本来の姿に近づいてきた。

 これで1勝2敗として、今日4日に勝利すれば五分に持ち込める。飯原は「明日からまた大事になってくる。しっかり戦いたい」と言った。曽祖父は正岡子規の弟子で、秋季キャンプ地の愛媛・松山市にある正岡子規記念館には、一緒に写った写真が飾られている。由緒ある家柄に、吹いた追い風。短期決戦には欠かせないラッキーボーイの出現で、波乱の予感が漂ってきた。【前田祐輔】

 ▼代打飯原が8回に先制本塁打。プレーオフ、CSの代打本塁打は今年大村(巨人)に次いで8本目だが、勝利打点となった「代打Vアーチ」は初めて。飯原は今季の公式戦で本塁打なし。公式戦で本塁打0の選手がプレーオフ、CSで1発は、73年広瀬(南海)77年飯塚(ロッテ)82年黒田(西武)10年今岡(ロッテ)に次いで5人目。公式戦の本塁打0で代打本塁打も初めてになる。