楽天田中将大投手(23)が24日、新球習得に意欲を見せた。その名も「ライジングカットボール」。左打者の懐に浮かび上がるような軌道で食い込む。ほとんど使い手がいない“魔球”だ。まだ実戦で使用するめどは立っていないが、この日のブルペンで試し投げした。明日26日、ヤクルトとのオープン戦(浦添)に先発し、今季最初の対外試合登板を迎える。

 「次、カットいきます」。田中の言葉に、森山投手コーチが右打席に入った。速いスピードで、手もとでキュッと逃げる球筋を確認したが「普通のカットだなあ。ライジング、してないよ」と、ちょっぴり残念そう。結局、計50球のうちカットは5球投げたが、1球も“ライズ”させることは出来なかった。

 ライジングカットボールとは-。森山コーチが証言する。「おととい、すごいボールを投げたんだ。浮かび上がってくるような。今日は普通の、でも素晴らしいカットだったけどね」。22日のブルペンで、1球だけライズしたという。受けた長坂ブルペン捕手は「あんなカットは初めて。普通は打者の手もとで少しは球速が落ちる。その分、斜めに切れ込むんだけど、田中のは同じスピードで真横に曲がった。だから浮かび上がったように感じるのでしょう」と言った。

 田中の変化球の組み立てはスライダーやスプリットが中心。過去にカットを投げたことはあるが、昨季は1球も使わなかった。本人は「今までのとは握りを変えて。(浮かび上がる)軌道をイメージして投げています」と明かした。狙いは「僕は左打者への速い変化球がない。幅は広がります」とした。右打者に食い込むシュート系のツーシームは持っている。カットをマスターすれば、左打者にも同様の攻めが可能。さらに浮かび上がれば、打者は当てるだけでも極めて難しくなる。森山コーチも「ファウルで逃げるか、バットをへし折られるか。アンタッチャブル(手を付けられない)だね」と期待した。

 現時点では、田中は「遊びですよ、遊び」と強調した。だが「遊びで投げるうちに使えるようになれば、試合でも使うでしょう」。今季目標はチームの優勝と2年連続沢村賞。遊び心の中から、強力な武器が生まれる予感がある。【古川真弥】

 ◆ライジングカットボールの使い手

 10年の球宴第1戦で日本ハム・ダルビッシュ(現レンジャーズ)が披露。巨人阿部は「セ・リーグにはあんな球を投げる投手はいない」と面食らった。田中はダルビッシュと今年1月に合同自主トレを行っており、影響を受けたのかもしれない。阪神久保も数年前から公式戦で使用している。

 ◆田中の持ち球

 直球の他にツーシーム、スライダー、スプリット、チェンジアップ、120キロ台の高速カーブ。110キロ台の遅いカーブもあるが、「精度が低い」と今季は封印する意向。