一塁奪取の秘策は…ささやき!?

 一塁に本格挑戦している阪神城島健司捕手(35)が27日紅白戦(宜野座)で「口」で走者を揺さぶりにかかった。一塁走者を惑わせるため、タイミングを見計らって大声で投手のクイックモーションをホメた。ささやきといえば捕手の専売特許だが、経験はマスクを脱いでも生かされる。

 球場中に響きわたるような声の主は一塁城島だった。リードを広げる走者を横目に、ベース上から1球ごとに投手に声をかける。

 「へ~い二神ぃ~、十分よ十分!

 いいクイックしてるよ~!」

 5回2死一塁。打者は下位打線の中谷で、走者は俊足の田上。当然、盗塁を狙ってくる場面だ。田上はジワジワとリードする。二神が盗塁を警戒しながらクイックモーションで本塁に投げる。その瞬間に声をかけた。

 もちろん走る方もプロ。いちいち真には受けないだろうが、すぐ横で何か大声で叫ばれたら少なからず動揺する可能性はある。

 「あれは走者へのハッタリよ、ハッタリ。特に意味はないですよ」

 城島も「陽動作戦」であることを認めた。言うのはタダ。相手がクイックを警戒してくれればしめたもの。一塁守備に慣れてくれば、ささやきのバージョンも広がっていきそうだ。

 ささやき戦術といえば捕手の専売特許、と思われていた。城島もマスク越しに打者に声をかけ、審判にコースの確認もしていた「しゃべる捕手」だ。

 一塁に移っても、その経験が生きている。25日のヤクルト戦では鶴の投球を横から見て「ホームに投げるタイミングが全部一緒。足が速い走者のときは工夫した方がいい」と試合中に助言していた。角度を変えた捕手の視点は、投手にとっても参考になるはずだ。

 口だけでなくグラブでも見せた。2回2死一塁で田上の一塁線を襲う痛烈なゴロに飛びつき、ショートバウンドでつかんだ。グラブさばきや横の打球への対応は猛練習中。着実に一塁手らしくなってきた。

 昨年8月に受けた左膝手術の影響で、捕手で開幕を迎えることはできない。この日は2打席で三ゴロ、三失に倒れたが打力を生かすため一塁に挑戦し、ブラゼルとの激しいレギュラー争いを繰り広げる。走攻守が互角でも、少なくとも「口」は城島にしかない大きな武器になる。【柏原誠】

 ◆捕手のささやき

 名捕手だった野村克也、達川光男らが得意とした。野村は当初「次は頭にいくでぇ」など直接的に脅していて、相手監督らから「先に野村にぶつけろ」などと反発を招いた。以後は打者の私生活についてささやき、集中力を欠く作戦に出た。東京・銀座などの高級クラブでホステスから情報を仕入れていたと後に明かしている。達川は球種やコースでウソを多用して、かく乱した。