<楽天6-5ソフトバンク>◇4日◇Kスタ宮城

 「観察力」が、メジャー通算119勝右腕攻略の足掛かりだった。1点を追う3回、楽天聖沢諒外野手(26)がソフトバンク先発のペニーから左前打で出塁。敵失で二塁に進むと、銀次との重盗を成功。捕手の二塁悪送球を呼び、同点ホームを踏んだ。それをきっかけに楽天は4点を奪い、4回にも2点を加えてペニーを「KO」した。3盗塁で通算100盗塁に到達し、キーマンとなった聖沢の武器の1つが「観察力」。独特の鍛え方があった。

 最近のある日。近所のスーパーに買い物に行った時だ。聖沢は支払いのため、3列あるレジへ向かった。夕方の時間帯、食材を求める客でごった返していた。目の前の列が一番すいていた。だが、先頭の人は商品をたくさん抱えている。おまけに、レジ係が若い見知らぬ人だ。入ったばかりのバイトだろうか。「時間、かかるな」。迷わず隣の列に並んだ。2人ほど順番待ちの数は多かったが、案の定、目の前の列の最後尾より早く支払いを終えた。

 6年前にさかのぼる。国学院大3年のころ。練習試合後、ベンチ前でミーティングが始まった。竹田利秋監督(当時。現総監督)が、ゆっくり口を開いた。

 竹田監督

 24時間、野球だと思いなさい。グラウンドでの8時間、睡眠の8時間を引くと、残り8時間。この時間を、いかに野球に生かすかを考えなさい。

 こうも言った。「どんな時も、どんなことも観察することが大事だ」。よく理解出来なかったが、やってみた。まず電車内、正面に座る人たちを見ることから始めた。次に席を立つのは誰か。どの駅で降りるのか。さっぱり当たらなかった。だが、そのうち、ちょっとしたしぐさに気が付いた。携帯から目を離した。路線図を見た。だんだん読めるようになった。

 グラウンドを離れたときも感性を磨く時間。今や、人間観察は習慣だ。「監督の教えを本当に理解出来たのは、プロに入ってからかも知れません。風向き、配球、投手のクセ。すべてを見て、感じて、プレー出来るようになりました」。

 この日の1回の遊撃内野安打、3回の左前打の2本の流し打ちも観察力のたまものだ。「ペニーは投球プレートの三塁寄りに立っていた。一塁寄りに立っていたら、僕の体に近い分、球筋の角度が窮屈で逆方向に打つのは、もっと難しかったはず。それに、風は右から左。2回の松中さんのファウルは左翼に伸びた。逆方向に打つしかないと」。重盗成功も緩慢なクイックを見抜いたものだった。

 初対戦ペニーの映像は2日間かけ目に焼き付けた。データは頭にたたき込んでいた。同時に、肉眼でじかに見て感じた情報をフル活用。3安打&3盗塁は偶然ではなかった。【古川真弥】