<広島0-9巨人>◇27日◇マツダスタジアム

 巨人杉内俊哉投手(31)が仕掛けた「トリック」に、広島打線が翻弄(ほんろう)された。7年ぶりの対戦となった相手に対し、8回を被安打1の無失点。「最低2ケタ」とノルマに課していた10勝目を挙げ、ハーラートップに並んだ。奪った三振13個のうち、実に10個がスライダー、チェンジアップの変化球だった。直球と変化球で投球フォームを巧みに使い分け、打者のタイミングを外し続けた。史上2人目となる「現12球団+近鉄」の13球団勝利もクリア。チームに5連勝を運んだ。

 11球しか投げていないのに…。杉内が2回のマウンドに向かう前、広島はベンチ前で円陣を組んだ。前夜16得点の打線は絶好調のはず。だが3者凡退で終わった初回の攻撃は、あまりにタイミングが合わなかった。広島とは実に7年ぶりの対戦の杉内。仕掛けた「トリック」がはまった。

 1回1死、2番菊池をチェンジアップで空振り三振に仕留めると、杉内はフィニッシュで三塁側によろけた。菊池が空振りした後にボールが届くほど、タイミングを外した。これを皮切りとし、13奪三振のうち実に10個を変化球で奪った。この日の投球を「野村君は低めにいいボールばかり。自分はなかなか出来ないので、力で押した」と振り返った。変化球がさえたが「力で押した」と表現した。

 杉内は2種類のフィニッシュを使い分けている。このため打者は目の錯覚を起こす。

 直球を投げるときは、体重を前に乗せきらず、後ろ側に残す。変化球、特に力を入れる勝負球の時は「とにかく腕を強く振る」。直球とは逆で、左膝を右膝にぶつける勢いで絞り込んでくる。全身で投げ込む余り体勢が崩れる。

 内藤トレーニングコーチは「動作のセオリーと逆の動き。杉内のテクニックで、打者は目の錯覚が起きる」と説明する。また、緩いボールを投げる機会の多い打撃投手の間で、このフォームが議論になった。昨季まで現役だった栂野打撃投手は「腕を緩めず、緩い球を投げるのは本当に難しい。杉内さんは直球よりも変化球の振りが強い。天才です」。

 回が進むにつれ、三塁側によろける姿が増えた。暑さのせいではない。わなを仕掛けまくった証拠だった。8回は全身で変化球を曲げた。最後はエルドレッド。1回の菊池と同じ、チェンジアップを振らせた。「記録は知ってましたよ。広島に(自分の)いい印象を与えたかったから良かった」と13球団斬りに納得した杉内の技術。原監督をも「三振、いっぱい取ったねぇ。相手はずっと、打ちづらそうにしていましたね」と驚かせた。【宮下敬至】